伝統的な王室のプロトコル(儀礼)を無視した振る舞いがたびたび批判の対象になってきたメーガン妃。一方でホームレスの支援や女性の地位向上に積極的に参加する活動家としての一面は高く評価されている。

 ここでは、日本テレビ放送網・前ロンドン支局長の亀甲博行氏による著書『ヘンリー王子とメーガン妃 英国王室 家族の真実』(文春新書)を引用。メーガン妃が慈善活動に積極的に参加するきっかけになった幼少期の出来事を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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田舎町にも「メーガン効果」

 イギリスには珍しい、近代的で巨大な橋が見えてきた。イメージ的には横浜のベイブリッジに近い。私たちは車で幹線道路のM4を西に向かっていた。

 早朝にロンドンを出てから3時間あまり。まるで海かと思うほど広いセヴァーン川を越えると、車はイングランドからウェールズへと入った。渋滞もなく単調なドライブに車内の会話は停滞気味だが、目指す町はまだ180キロ先。長い道のりだ。

 2018年4月、この日向かったのはウェールズ西部の海沿いの町、カーディガン。最寄りの駅からも車で1時間ほどかかる田舎町だ。私はそれまで名前を聞いたこともなかった。カーナビを頼りに走っていると、やがて道幅は対向車とすれ違うのも難しいほど狭くなってきた。畑の中を伸びるのどかな道は、車より馬車が似合いそうなくらいだ。

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 目指す工場はカーディガンの町の外れにあった。工場の前に停められた、従業員のものらしき車は15台ほど。思ったよりも小規模だ。

「ヒウト・デニム(Hiut Denim)」という看板が掲げられたこの田舎の工場に、メーガン妃が大きな影響を与えていた。

 イギリスでは「メーガン・エフェクト」、日本語にすると「メーガン効果」という言葉がある。これはメーガン妃が公務などで身につけた衣類が、あっという間に売り切れてしまうことを指した造語だ。もともとは、キャサリン妃が身につけたものが売り切れ続出となることを指す「キャサリン効果」という言葉があり、それをもじったものだ。

テレグラフ紙の記者からの注文

 婚約を発表したメーガン妃は、まだ結婚前にもかかわらずヘンリー王子とともに積極的に公務に出席していた。2018年1月にはウェールズのカーディフ城を訪問。このときロイヤルファミリーには珍しく黒いジーンズを穿いていたが、その映像がニュースで流れたところ、メーカーに注文が殺到し一瞬で売り切れてしまった。そのジーンズを作っていたのが、ヒウト・デニムだった。

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 工場の中に入ると、天井の高い開放的な空間にたくさんのミシンが並んでいる。作業しているスタッフの横にはジーンズが山積みにされ、1本1本、手作業で作っているようだ。工場というよりは工房という方がイメージに近いかもしれない。日本では馴染みがないが、ヒウト・デニムはイギリスでは知る人ぞ知る、高級ジーンズブランドだ。

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 共同創業者であるハイアットさんに話を聞いた。オシャレなジャケットとメガネが印象的な男性だ。

「ちょうど最後の1本ですよ」

 そう言いながら棚からとって見せてくれたのは、メーガン妃が公務で穿いていたものと同じモデルだ。黒でハイウェストのスキニージーンズは、185ポンド(約2万8000円)。

 最初に電話がかかってきたのは、イギリスの「テレグラフ」紙の記者からだったという。