昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「『どっちもどっち』ではないのです」

 しかし2011年の事故から10年間にわたって、辻氏はAさんの家を訪れることはなかった。辻氏は「謝罪は自分のタイミングでする」と主張しているが、その状況に耐えかねて、Aさんの両親は辻氏に何度も批判的なメッセージを送ることになった。その中には、攻撃的と取られかねない文面も存在する。その場合でも、被害者から辻氏への損害賠償請求は成立するのだろうか。

「確かに双方に過失がある場合は、お互いの過失が相殺されて賠償額が減る可能性があります。被害者といえど、法に触れる行為は控えるべきです。

 しかしながら、加害者の過失や不法行為の責任がまったく無くなるわけではありません。感情のもつれから被害者側が攻撃的になってしまうケースも数多く見てきましたが、被害者が攻撃的なメッセージを送る背景には、加害者からの謝罪に納得していない場合がほとんどで、加害者側の落ち度のほうが上回るといえます。『自分のタイミング』という主張で被害者を10年間待たせるのは理由として通りません。被害者のタイミングで謝罪しなければならないのに本末転倒です。『どっちもどっち』ではないのです」(高橋弁護士)

辻氏がAさんの母親に送ったインスタグラムのメッセージ

SNSで加害者が視界に入ってきてしまう現代特有の困難

 今回の問題は、辻氏がSNSで華やかな生活を投稿し、被害者がそれを目にしてしまったことで感情のもつれが大きくなった経緯がある。誰もがSNSで発信する時代、加害者と被害者の生活圏が交錯するリスクは格段に上がっているのだ。

「SNSがトラブルの火種になるケースはとても多いです。加害者が知名度や影響力のある人物の場合、被害者は意図せず加害者を目にしてしまい、そのたびに事故の苦しみが蘇ることになります。さらに加害者が一般人であっても、『つい加害者のことを検索してしまう』と悩む被害者も多くいます。『不幸になるのなら見なければいい』というのは正論なのですが、憎んでいるものや嫌いなものに意識を引き寄せられるのは人間の性質なのかもしれません。きわめて現代的な課題ですが、これからSNSが元になるトラブルは増えていくでしょう。この問題の対処法はまだ存在しません」(同前)

2015年頃に辻氏が投稿したインスタグラム 「やっぱり教習所行こう」という言葉が見える

 法的な責任に加え、法律の「その先」で起きる人間同士のトラブルは、どうすれば解決に向かうのだろうか。交通事故訴訟を長年あつかってきた経験から、高橋弁護士は次のように見解を語った。

「加害者は法的に罰せられたあとも、被害者の負った被害を誠心誠意填補することが大切です。若い被害者が寝たきりになった場合、賠償額の相場はだいたい2億円前後と言われています。死亡事故では7000万円ほどのケースが多いので、長年にわたって介護を続ける家族の負担はそれほど大きいということ。

取材中も何度もAさんの痰の吸引を行っていた父親 ©文藝春秋

 保険などを使ってその金額を支払い終えた後も、無理のない範囲で自分から被害者に償い金を直接送るのも謝罪の気持ちを表明する方法になるでしょう。

 刑事裁判で受ける刑罰とは、社会の秩序を乱したために国から受ける罰のこと。その罪を償った後も、加害者から被害者に対して誠心誠意向き合う気持ちを示すことが重要なのです」

この記事の写真(8枚)

+全表示

文藝春秋が提供する有料記事は「Yahoo!ニュース」「週刊文春デジタル」「LINE NEWS」でお読みいただけます。

※アカウントの登録や購入についてのご質問は、各サイトのお問い合わせ窓口にご連絡ください。

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー