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英米が「思いつき」「ばらまき競争」の政策から脱却できたワケ――オレの争点 #5

英米が「思いつき」「ばらまき競争」の政策から脱却できたワケ――オレの争点 #5

「機能的で賢い政府」になるために

2017/10/18
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政策にフリーランチ(ただ飯)はない

 ところで図表にはもう一つ重要な軸がある。イデオロギー重視なのか、それともファクト・エビデンス重視なのかを示す黒い軸である。「ファクト」とは政策を考える上での「事実」を指し、例えば日本の人口動態や財政の状況などがファクトに当たる。「エビデンス」とは政策効果に関する科学的な「根拠」のことである。

 今回の選挙において多くの政党が「教育政策の拡充」を掲げているが、そのための具体的手段は多岐に渡る。教育政策の拡充と一言でいっても、子ども全般を支援するのか貧困層に重点的に支援するのかといったターゲットの違いもあれば、学力向上を図るのか社会関係や自己肯定感等の改善を図るのかといった目的の違いもあるし、就学前教育を拡充するのか高等教育を拡充するのかという年齢層の違いもあり、非常に幅広い。効果が見込めない政策に財源を投入したとしても単なるばらまきになってしまう可能性が高い。

多くの政党が「教育政策の拡充」を掲げているが…… ©getty

 黒い軸よりも上はファクト・エビデンスを重視する政党であり、下はそれよりもイデオロギーを重視している政党である。例えばブレア政権以降のイギリスではエビデンスに基づく政策形成(Evidence-Based Policy Making:EBPM)が急速に進められており、労働党から保守党への政権交代後もその流れは引き継がれている。

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 キャメロン政権成立後につくられた組織としてWhat Works Centre(WWC)と呼ばれるものがある。これは直訳すれば「どういった政策が機能するのかセンター」である。キャメロン政権成立以降、教育、医療、犯罪、地域経済など多様な政策分野についてWWCが設立されている。

 例えば教育政策の場合、さまざまな取り組みの効果を科学的に測定し、その効果を整理することにより、政策形成や学校現場での具体的な実践に活かしていく役割を担っている。具体的には、留年させることは高コストで効果の低い取り組みである一方で、グループ学習はコストが低くて効果の大きな取り組みである、といったことを明らかにしている。アメリカでもオバマ政権がEBPMを強力に推進しており、有識者会議(Comission on Evidence-Based Policymaking)が最終提言を先月公表したばかりである。

 ファクト・エビデンスに基づく政策を進めるために諸外国で導入が進んでいるのが、独立財政機関である。

 今回の衆議院選挙をみても、消費税増税の凍結を掲げる政党や幼児教育・高等教育の無償化を掲げる政党ばかりであり、負担抑制・歳出拡大競争の様相を呈している。税負担を増やすことや歳出を抑制することは得てして不人気な政策であり、政治家はそうした政策を避けてしまう傾向が強い。その結果、将来世代に負担を先送りしているのが現下の日本の状況である。それを防ぐために諸外国で設立が進んでいるのが独立財政機関であり、政府とは一定の距離を保ちながら財政の長期予測や提言をする役割を担っている。

 歴史が古く世界的に知られているのがオランダの経済政策分析局(CPB)である。CPBは選挙のたびに各党が掲げる政策を実施した場合の効果を中立的な視点から推計しており、分析項目は、GDP、財政収支、所得分配、雇用など多岐に渡る。政策にフリーランチ(ただ飯)はない。歳出を拡大すれば財政赤字は拡大するし、財政赤字が拡大すれば将来に負担を先送りすることになる。逆に財政再建を試みれば短期的には経済は落ち込まざるを得ない。そうした点について、中立的な視点から有権者に情報を提供するのがCPBの役割となっている。