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無失点日本記録の西武・平良海馬 “低身長、がっちり”タイプの高卒投手はなぜ“即戦力”となれたのか

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/06/29
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どの球種が来るかわからない……

 平良投手の進化は、シーズンごとの「球種の割合」の変化にも表れています。

【2019年】
ストレート:65.2%、スライダー:12.3%、カットボール:9.7%、チェンジアップ:6.6%、カーブ6.2%

【2020年】
ストレート:54.3%、カットボール:15.3%、スライダー:11.4%、チェンジアップ:8.9%、ツーシーム:7.9%、カーブ:2.2%

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【2021年】
ストレート:36.7%、スライダー:26.7%、カットボール:20.7% 、チェンジアップ:15.9%
(データはデータスタジアム提供、2021年の数値は6月27日終了時点。以下同)

 大きく言うと、2019年、2020年はストレートの割合が半分以上でした。新人王を獲得した2020年の特徴は、カットボール、ツーシームなど小さく曲がる系が増えていることです。おそらく開幕前まで先発に挑戦した影響もあるのでしょう。そして今年はストレートが全体の3割台になり、スライダー、カットボール、チェンジアップという4球種で勝負しています。

 ピッチャーは基本的に「自分の何が一軍で通用するのか」というところをベースにやっていくもので、高卒2、3、4年目でこんなに投球割合が変わるピッチャーはなかなかいないと思います。横浜高校から鳴り物入りで西武に入団した松坂大輔投手のような場合ならわかりますが、そうではない投手、しかもリリーフがこれだけ変えるのは見たことがありません。

 マニアックな話をすると、今、変化球には大きく3つのトレンドがあります。

 一つは、大きく曲げる球。一つはカットボールやツーシームなど、ストレートとの球速差があまりない変化球。もう一つはいわゆるピッチトンネルで、同じコースからどちらの方向に動くかわからないという投球術です。

 平良投手の場合、どれもある程度当てはまっています。一番目の曲がりが大きい変化球としては、スライダーの曲がりがかなり大きくなっています。

 スライダーをどれくらい打たれたかというデータを見ると、2020年は26打数1安打で、今年は24打数1安打です。今年打たれた1本は6月13日の中日戦で、ダヤン・ビシエド選手に対して浮いたスライダーでショートゴロを打たせたと思ったら、ボテボテすぎてヒットになったものです。こうして見ても、平良投手にとってスライダーはものすごく効果的な球種であることがわかります。

 これは私の推測ですが、ドジャースのトレバー・バウアー投手と同じようにテクノロジーを使って投球解析し、「あの投手と同じスライダーを投げたい」と“完全コピー”しているのではないかと見ています(これもマニアックな話なので、どんなことをやっているのか気になる方は「日本経済新聞」の記事を参照してください)。

 今年はストレートを投げる割合が全体の3割台になったと書きましたが、逆に増えている球種がスライダーです。全体の投球におけるストレートとスライダー、カットボールの割合は「36.7%:26.7%:20.7%」。特に右バッターに対しては、「どれが来るかわからない」という状態になっています。

 しかもストレートは平均153km/h。全体ランキングで見てもトップ10に入り、日本人投手に限れば2位(1位はソフトバンク・千賀滉大投手)という球速です。

 そして横曲がりが非常に大きいスライダーと、ストレートスライダーの中間にあるカットボール。去年に比べてストレートの割合を減らしたことで、バッターにとって「何が来るかわからない」という状況になっているのは、無失点投球を続ける上で非常に大きい要因だと思います。

「岩鬼×殿馬」のハイブリッド

 もう一つ、興味深いデータがあります。得点圏にランナーを背負った際のものです。

 楽天の田中将大投手が2013年に24勝0敗という成績を残した際、得点圏に走者が出るとストレートが2~3km/hくらい速くなっていました。じつは、今季の平良投手にも同様のデータがあります。

 ストレートの平均球速を見ると、得点圏に走者がいる場合は154.1km/hで、そうでない場合は152.9km/h。ストレートに限らず、すべての球種でピンチの際には球速が1~2km/h程度上がっています。

 田中投手の場合は先発なので状況によって力を抜く、抜かないということがあると思いますが、平良投手はリリーフです。それでもこうした投球ができるのは、クレバーさを感じます。

 一般的に、体が大きい人(いわゆるがっちり系、ゴツい系)は“頭を使う”というところから遠い場所にいると考えられがちです。例えば『ドカベン』で言うと、岩鬼正美と殿馬一人の場合、頭を使うのは殿馬で、岩鬼はそうではないと思われる。だからこそ文武両道の公立高校は、「自分たちはひ弱だけど、頭を使って勝つ」と考えるかもしれません。

 しかし今、この方法は“幻想”になりつつあります。MLBも含めた野球界全体では、「いかに頭を使って身体を大きくするか」と考えられるようになってきています。逆にパワーをつけるところこそ、一番頭を使わないとできない部分です。

 私自身はどちらかと言うと、小さくて頭を使う側の人間に近いので、「大きい人たちに頭も使われると勝てないじゃん……」というのが正直なところです。

 でも、現実は変わってきている。今後の野球界で求められるのは、いかに頭を使ってパワーを上げるか。つまり、スマートマッチョです。

 平良投手はスマートマッチョの代表格と言えるでしょう。「自分の持っている体でなんとかしよう」と頑張るのではなく、まずはトレーニングで身体形態を変えていく。入団時に84kgだったところから、4年目に100kgまでスケールアップしました。平良投手のように「前提を変えられる」という点は、これからの野球界で非常に大事な話になっていくと思います。

 そうしたスマートマッチョの代表格が、西武で継続中の無失点記録をどこまで伸ばしていくのか。さらに、日本代表として臨む東京五輪でどんな活躍を見せるのか。

 今回の侍ジャパンで平良投手はヤクルトの村上宗隆選手と並んで最年少ですが、球界のスーパースターたちと遜色ない取り組みをしていると思います。果たして注目を浴びる大舞台でどんな投球を見せてくれるのか、非常に楽しみにしています。

構成/中島大輔

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