ニルヴァーナのアルバム『ネヴァーマインド』のジャケット写真で有名な元赤ちゃんモデルの男性(30歳)が、当時の写真は児童ポルノであり、性的搾取にあたるとして故カート・コバーンの遺産管理人を含めたニルヴァーナの元メンバー、関連するレコードレーベルを相手に訴訟を起こしていることが報じられた。
男性は2016年、当該アルバムのジャケットを再現した写真を撮影し、「(生後四ヶ月だった当時のことは覚えていないが)ニルヴァーナというバンドの重要なシーンに立ち会えたことはすごいことだと思うが、不思議だ」と、自身が25歳になった節目に語っていた。
その一方で、2007年にはインタビューで「世界中の多くの人に自分の裸を見られていると思うと気味が悪い。世界最大のポルノスターになったかのような気分だ」とも話しており、複雑な心境をあらわにする場面もあった。
ネットでは批判があふれていたが……
男性がニルヴァーナ側を提訴している事実が報道されるや否や、ネット上には「これまでさんざんネタにしてきたくせに」「30歳にもなって今更『性的被害』だと騒ぐのは無理がある」「金になると思って訴訟を起こしたに違いない」といった批判があふれ、「生涯にわたる損害を受けた」とする男性の主張に耳を傾けようとする人はほとんど見られなかった。
しかしながら私は、「個人が過去の性的被害を訴え出る行為」について浴びせられる激しい批判に対して、強い危機感を覚えている。
男性の訴えが「正当」であるか否かについては裁判所しか判断しようがないためここでは言及できないし、彼の本心についても彼自身しか知りようがないので推察しかねる。この記事は、私が男性側の主張を全面的に支持する目的で書くわけでも、彼の「善性」に期待したうえで書くわけでもないということは、先に申し上げておきたい。
私が懸念しているのは、今回の「ニルヴァーナアルバムの元モデル男性」に対する批判を放置(=黙認)した結果、今後、性的被害に遭った人々がこれまで以上に声を上げづらくなってしまうことである。
「正しい被害者像」の恐ろしさ
そもそも、性的被害を訴え出た被害者に対して「被害を受けたあとの被害者の振る舞い」を持ち出して糾弾することは、セカンドレイプに他ならない行為である。「性的被害を受けた」事実は、「性的被害を受けたあとに平気そうにしていた」かどうかで事実認定が捻じ曲げられるものではないはずだ。
2019年、ジャーナリストの伊藤詩織氏が、元TBS記者・山口敬之氏から「性暴力を受けた」として同氏に損害賠償を求めた訴訟において、敗訴した山口氏が会見で「本当に性的被害に遭った方は『伊藤さんが本当のことを言っていない。こういう記者会見の場で笑ったり、上を見たり、テレビに出演してあのような表情をすることは絶対にない』と証言してくださった」と発言したことが話題になった。