つまり、この三つの例において、「海賊王に」はいずれも従属節の要素であるにもかかわらず、かきまぜ後には主節の要素である「俺は」よりも前に現れているのである。別の言い方をすると、主節と従属節の境界をまたいだ「かきまぜ」が起こっていることになる。
俺は[海賊王になりたい]と思っている。
(かきまぜ後)海賊王に 俺は[なりたい]と思っている。
俺は[海賊王になる]夢を追いかけている。
(かきまぜ後)海賊王に 俺は[なる]夢を追いかけている。
俺は[[海賊王になる]夢を追いかけた]後、地元に戻った。
(かきまぜ後)海賊王に 俺は[[なる]夢を追いかけた]後、地元に戻った。
このように、同じ「主節と従属節の境界をまたいだかきまぜ」であっても、比較的自然な場合と不自然な場合がある。
自分の「かきまぜ」に留意してみよう
また、ここまでに見た例は「従属節の中のものを前方に持っていくタイプのかきまぜ」だったが、逆に従属節の中のものを後ろに持っていくとかなり不自然になることが知られている。たとえば「俺は海賊王になりたいと思っている。」では、従属節[海賊王になりたい]から「海賊王に」を前に持っていってもあまり不自然にはならなかったが、後ろに持っていくと非常に不自然に感じられる。
俺は[海賊王になりたい]と思っている。
(かきまぜ後)俺は[なりたいと]海賊王に思っている。
このように、「語順が自由」といっても完全に自由なわけではないということは、日常的に言葉を使う上で知っておいた方が良いかもしれない。不自然な「かきまぜ」は、話し言葉には頻繁に現れるし、文章を書くときにも意外とやってしまうものだ。文章を直すときなどに、自分がどんな「かきまぜ」をしているかに注意すれば、読む人にとって分かりにくくなってしまうポイントが見つかることがある。
とくに、ここで見たような「従属節の境界を越えたかきまぜ」や「名詞句の境界を越えたかきまぜ」は、多くの場合、読む人の頭に負荷をかけてしまう。これらを極力避けるようにすれば、読みやすさがかなり変わってくるはずだ。
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