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「確かに、残業が多いと総務から連絡がきます。ただ、その時に会社から解決策が示されることは無いんです。むしろ現場から『人員を増やします』といった回答をしなければならない。それに対して会社は何も返答をしませんし、解決の手伝いもしてくれません。結局は『残業対策をしています』というポーズだけで問題は見て見ぬふりをしているんです」

「他チェーン店が深夜営業をしている。特別扱いできない」

 ココスは新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた2020年は前年比で50億円もの減収となっている。業績の影響か採用人数も例年の40名ほどから2020年度はたったの5人。正社員も増える気配がないが、そもそもココスは若手社員の定着率が低いのだとAさんは頭をかかえる。

写真はイメージです iStock.com

「とにかく仕事がきついので採用しても8割くらいの新人は辞めていきます。自分のいるエリアでも20人近く配属して1人か2人しか残らないこともあります。退職代行を使ってまで辞めた若手社員もここ2~3年で2人いました。長年勤めた自分でも残業は増えるのに給料は下がっていますから、若手が辞めるのも納得してしまいますね」

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 こういった状況に対し、せめて営業時間を短くしてほしいという要望は社内から何度も上がっているとAさんは語る。しかし、経営陣はそういった現場のSOSに耳を傾けようとしないという。

「会社はエリアを管轄するマネジャーの判断に任せるという結論でしたが、売り上げが下がって自分の評価を下げたくないマネジャーは営業時間を短くすることはありません。それどころか、せっかく24時閉店になった店舗も『他チェーン店が深夜営業をしている。特別扱いできない』という訳の分からない理由で深夜営業に戻されたこともあります。他の飲食店が年末年始を休みにする中でココスだけは今でも通常営業。結局、人よりも利益が大切なんだと思います。まだ重大な事故は起きていませんが、いつすき家のようなことが起こってもおかしくはありません」

ココス(写真は秋葉原店、本文とは関係ありません)

「次回評価からルールを変更します」

 ゼンショーホールディングスに事実確認を行うとココスジャパンから、残業時間が増えると給与や賞与が下がる評価制度については確かに存在し、従業員にも明示しているとの回答があった。

「ご指摘いただいた項目は、被評価者(店舗責任者等)本人を含む対象店舗全体で不要な残業を極小化すること、また店舗従業員の労務管理のための評価項目としています。こちらは、店舗責任者の店舗管理力を評価するための項目の一つであり、賞与の総合評価を決める際の評価点数の減点対象となっています。また、賞与評価に関わる各項目は半期ごとに実施する人事評価で使用するシートに記載されており、被評価者(店舗責任者等)本人も確認できるようになっています」

 評価制度の弊害として、従業員が実際の勤務時間を申告できずサービス残業を強いられる状況については「認識しています」との回答だった。

「店舗責任者が実際の勤務時間よりも短く申請せざるを得ないといった声が一部あることについては本部でも把握しています。上記のとおり店舗責任者の店舗管理力を評価するための項目であり、勤務時間を過少申告させることは意図するところではありませんので、そういう事態が発生していることは問題であると認識しています。ただちに被評価者(店舗責任者等)本人の時間外労働を本評価の対象としないよう、次回評価(秋に行われる 2022 年度上期評価)からルールを変更します。貴重なご指摘ありがとうございます」

 ブラック企業での労働問題に詳しい神奈川総合法律事務所の嶋﨑量弁護士は、Aさんの訴えおよびココスの労働状況について苦言を呈する。

「評価表に明記された、給与が下がる評価項目の1つに過ぎないので、残業時間が多いと給料が下がるというシステムが直ちに違法とは言い切れません。ただココス自身が認めているように、結果的に従業員が『正確な時間を申請すると損をする』と思わせてしまっているのは事実で、現場の実情から乖離したシステムであると言えます。早急な改善を期待します」

 すき家の悲劇を繰り返さないためにも、ココスが店舗の実情に沿ったシステムを構築することを期待したい。