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 ココスの採用HPに掲載されている「ストアマネジャーの一日」には午前11時に店舗に出勤し、夜9時には遅番のクルーに店舗を任せて帰宅する姿が掲載されている。しかし、こういった働き方ができるのはごく一部の恵まれた店舗だとAさんは語る。

「ココスは月の勤務時間を168時間と定めて、休みは10日取れることになっています。でも、休みなんてほとんど取得できませんし、100時間近い残業は日常的に行われています。毎月、残業時間が多い社員のリストが社内で公開されるのですが、80時間を超える残業をしている人は毎月います。休みも4~5日は取らないといけないのですが、1日か2日しか休めないこともあります」

残業時間が増えると給料が下がる評価システム

ココスの従業員が見られる、評価制度のサンプル表

 さらにAさんはこういった残業時間には含まれていない「サービス残業」が何十時間とあるという。それにはココスの評価制度が関係しているようだ。

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「ココスでは36協定に違反する45時間以上残業が4か月以上、もしくは単月で75時間以上の残業をすると給料が下がってしまいます。残業代は付くのですが、基本給や賞与が下がってしまいます。年収計算で少なくとも25万円、50万円以上年収が下がることもあります。そのため、違反になってしまう人は残業時間を少なく申請したり、出勤したのに公休日として申請したりしているんです」

サンプル表には、残業が45時間を超える月が半期で4度ある、または75時間を超える月が1度でもあると「-20」の減点となる仕組みが明記されている

 Aさんが見せてくれた給与評価のサンプルの左下には減点対象の項目がある。その中に「時間外労働75時間超え1回、又は36協定違反4か月以上」とあり、残業が増えると給与評価が下がってしまうことが分かる。

 36協定とは労働基準法に定められた法定労働時間(一日8時間、週40時間の労働時間)以上の労働を従業員にさせる時に雇用者と従業員が締結する労使協定である。本来であれば、雇用者が不当に長時間労働を従業員に強いないために存在するものであるが、ココスでは従業員がサービス残業しなければならない評価制度に利用されているというのだ。

 Aさんの月間勤怠表を確認すると、勤務時間が13時間を超えた日は一日もない。しかし、1日の勤務スケジュールを記載したデータからは14時間以上の勤務をした日が何日も存在し、残業時間を少なく申請していることが分かる。こういったことを日常的にしなければ、給料が下がってしまうことにAさんは複雑な心境を抱いている。

写真はイメージです iStock.com

「店舗に滞在する時間は変更できないので、休憩時間を多くとったというようにして実務時間を短くしています。本当は休む暇なんてほとんどないんですけどね…。一度実態に近い残業時間を申請して会社に『こんなに頑張ってるんだ。なんとかしてくれ!』とアピールしましたが、ただ給料が下がっただけでした」

 2015年、当時電通の新入社員が過労死ラインを超える残業時間で働き続けた末に自殺した。この事件をきっかけに、働き方改革に乗り出した企業は多い。ココスの親会社であるゼンショーホールディングスも自社のHPで時間管理委員会という長時間労働を監視する組織を設け、労働環境の改善に努めていると公表している。しかし、そういった取り組みは形式上のものに過ぎない、とAさんは批判する。