「国が『人権委員会』を設置することです」
――来年3月に、全国水平社創立から100年を迎えるにあたって、どのような思いがありますか。
「解放運動が、社会運動として100年続いてきたことは私たちの誇りではあります。が、その反面、部落差別が完全に無くなっていないということは極めて残念です。そういった2つの思いを抱いています」
――「ネット版 部落地名総鑑事件」のように「ネットでの部落差別」が大きな問題となっています。
「今はプロジェクトチームを作って、取り組んでおりますが、結論から言うと、国が1日も早く、独立性のある『人権委員会』を設置することですよ。インターネットのモニタリング(監視)も大切ですが、それはやはり対症療法に過ぎない」
「人権委員会」とは、1993年に国連決議で承認された「国内機構の地位に関する原則」(パリ原則)によって定められた、政府から独立した委員会だ。政府や議会を含むあらゆる機関に対し、人権保護等の観点から、意見や勧告などを行う。2021年現在でパリ原則に従い、世界128の国と地域が人権委員会を設けているが、日本にはまだない。
「128のうち、パリ原則の規定に完全に合致しているのは86カ国。アジア太平洋諸国でも20カ国以上で設置されています。アジアの大国で人権委員会が置かれていないのは日本と中国だけです。
岸田内閣では、人権問題担当の首相補佐官を置き、中谷(元・元防衛相)さんが就任されました。中国における、香港や新疆ウイグル自治区での人権弾圧を念頭に置かれている。もちろんそれも大切ですが、まずは国内の人権侵害にも目を向け、人権委員会を作っていただきたい。そうでなければ、中国にもクレームがつけられないんじゃないですか。
私は以前から言っていますが、人権委員会を設置することは、国益にかなうと思いますよ。人権外交のカードを切るときに、自国に人権委員会が『有る』と『無い』とでは全く影響力が違いますから」
――ネットでは今、まさに差別や誹謗中傷の言論が溢れています。
「インターネットでの差別や誹謗中傷が酷い状況にあるということは、私も(テラスハウス事件の)木村花さんの件などで承知しています。中学生や高校生が誹謗中傷を受け、自殺する痛ましいケースも聞いています。だからこそ、こういう状況を無くすには、やはり政府から独立した人権委員会を作って、そこがきっちりと(誹謗中傷をした)本人に警告、従わなければ何らかの形で処罰する。あるいは人権を侵害するような差別発言、誹謗中傷を載せ続けるプロバイダーには削除要請を行い、従わなければ、強制的に削除するといった、先進国の取り組みに学んで欲しいです」
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西岡研介氏による「部落解放同盟の研究」連載第1回全文は、月刊「文藝春秋」2022年1月号および「文藝春秋 電子版」に掲載しています。
部落解放同盟の研究 第1回