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最悪の「ネット版差別事件」に部落解放同盟の対応はなぜ鈍かったか?《組坂繁之委員長インタビュー》

部落解放同盟の研究

2022/09/27

source : 文藝春秋 2022年1月号

genre : ニュース, 社会, 政治

 水平社創立から100年、部落解放同盟・組坂繁之委員長にその存在意義を問う――。ノンフィクションライター・西岡研介氏による人気連載「部落解放同盟の研究」第1回の一部を転載します(月刊「文藝春秋」2022年1月号より)

「暴力集団」という負のレッテル

 2017年5月7日、部落解放同盟のトップである組坂繁之・中央執行委員長(78)の自宅に1通の茶封筒が届いた。

 差出人の名はある著名な新興宗教団体の教祖。不審を覚えながらも開封すると、右親指に鋭い痛みが走った。封筒の内側には、開封時に指が切れるよう、デザインナイフの替刃2本が仕込まれていた。

 滴り落ちる血を見ながら、組坂委員長は恐怖よりむしろ、激しい怒りを覚えたという。封筒のなかには予想通り、被差別部落と部落民を中傷する差別文書が入っていた。

組坂繁之委員長

 この封書は、三重県四日市市で5日前に投函されたものだった。実は、この2カ月前から解放同盟の三重県連に5通、中央本部、大阪事務所、そして同盟の機関紙を発行する「解放新聞社」(大阪市)に各1通、同様の差別文書が届いていた。うち2通には、組坂委員長宅に送り付けられたものと同じく、封筒の内側にデザインナイフの刃が貼りつけられ、他の封筒にもアイスピックやカッターナイフの刃が入っていた。

 明らかに、部落解放同盟をターゲットにした、陰湿なヘイトクライム(憎悪犯罪)だった。

 近世封建社会における身分制度の残滓であり、江戸幕府、明治政府には民衆の分断統治に用いられてきた「部落差別」。いまだ社会や人々の意識の奥底に潜み、かつては日常のあらゆる局面で、そして今なお結婚などの際に、その醜悪な姿を現わす。

 こうした封建時代から脈々と続く部落差別に対し1922(大正11)年、人間としての尊厳と平等、差別からの解放を求め部落民自身が立ち上がり、創立したのが「全国水平社」だった。「人の世に熱あれ、人間に光あれ」という有名な宣言を、学生時代、歴史の授業で習った方も多いだろう。

 水平社は、日本初となる「被差別当事者自らが立ち上げた反差別・人権団体」だったが、終戦直後の1946年、その「水平社精神を受け継ぐ」として結成されたのが「部落解放同盟」である(結成当初は「部落解放全国委員会」、1955年に改称)。

 ピーク時は全国に2000の支部を持ち、18万人の同盟員を擁した。

 だが、その一方で、この団体には、戦後75年の歴史の中で、一部過激化した糾弾闘争によって、「暴力集団」という負のレッテルが貼られた。