何も見ずに20年先のカレンダーを書くことができる記憶力
「記憶力がすごい学生がいますよ」
女性職員が紹介してくれたのは、「あなたの誕生日の曜日を当てられます」と特技を書いた紙をパーテーションに貼っていた男子学生だった。iPhoneで音楽を聴きながら、色鉛筆をずっと触っている。
私の誕生日月である「7月」と、「2023年」を伝えると、男子学生は2分ほど考えてから、白紙にカレンダーの枠となるタテ5×ヨコ7のマス目を描き始めた。そしてすぐ、何も見ないで、左上から順に数字を書き始めた。日曜日と祝日は赤の色鉛筆に持ち替える丁寧さ。
1日から31日までを書き終えた。職員がスマホのカレンダー機能で2023年7月のカレンダーを確認すると、数字も曜日も見事に一致していた。
女性職員によると、男子学生は重度の自閉症で、コミュニケーションをとるのは難しい。だが、20年ほど先のカレンダーまで、何も見ずに書くことができるという。
のちに調べてみると、「サヴァン症候群」という人の特徴と似ていた。精神の発達に遅れはあるが、飛び抜けた記憶力があるという。日付を伝えると、曜日を言い当てる「カレンダー計算」ができることも特徴としてあげられていた。
「差異能」を伸ばす子どもたち
しかし、どう記憶しているのだろうか? そもそもこれは記憶力なのだろうか。職員も「わかりません。不思議ですよね。でも、中学生のころは人や物に当たることがありましたけど、今は成長して、少しずつコミュニケーションもとれるようになってきました」と目を細めた。
伊藤学園長はこう言う。
「私たちは才能を『差異能』と呼んでいます。誰しもそれぞれの能力があるという考えです。それが社会で発揮されるように、教育や支援をしています」
知能検査でも定期テストでも測れないが、確かに存在する能力がある。学校に通わなくても、それを見いだし、支援する翔和学園のような居場所が、もっと増えてほしいと思った。
しかし、こうした民間レベルの取り組みは始まったばかりだ。国内でのギフテッドや2Eの子どもへの支援は、戦後の日本で、特に公教育ではほとんど行われてこなかったのが実情だ。