土地の実勢価格より、2割以上安い路線価で売却見込み額を算出しておけば、“普通の相場”で売れたとしても、高く売れたように錯覚する人もいるのではないか。
「博友寮跡地」の取引を担当した、荒川区土地開発公社の関係者(区職員が兼務)に、女子医大が交渉によって、見込み額より1.3億円も高く売れた、と主張していることについて聞くと、不快感をあらわにした。
「何故、こんなこと書いているんでしょうね。どこを調べていただいても構いませんけど、うち(荒川区)が女子医大に言われたからって、購入額を高くすることはできません。土地の購入価格は、外部の不動産鑑定士などを入れた、財産価格審議会によって決められますので」
大半の自治体では、第三者の専門家も交えた財産価格審議会が、実質的に土地の購入価格を決定している。女子医大の稟議書に記載されていたように、“協議に協議を重ね”交渉したとしても、購入価格に影響はない、と荒川区の担当者は断言した。
「同席はしていましたが、仲介はしていないと思います」
では、女子医大が契約した仲介業者がどのような役割を果たしたのか、荒川区の担当者(当時)に確認すると──。
「確か女子医大の担当職員が、不動産業者みたいな人を連れてきていたような気もしますが…。ただ、その者を介して契約したとかではありません。同席はしていましたが、仲介はしていないと思います。だって直接、荒川区土地開発公社と女子医大が契約を結んでいますから。契約書も荒川区土地開発公社が作成しました」
2019年2月7日に締結された「博友寮跡地」の土地売買契約書には女子医大と荒川区それぞれの理事長名が記されているが、仲介業者の名はどこにも見当たらない。
不動産売買に詳しい、東京山手法律事務所の野間啓弁護士は、自治体との土地取引で民間側に仲介業者が入るケースは稀にあるとした上で、次のように指摘する。
「今回のように、売主側だけに仲介業者が付くことを業界用語で『片手取引』と呼びますが、この場合に最も重要なのは、買主を見つけることです。今回、買主は荒川区でほぼ決まっていたわけですし、重要事項の説明も行わず、契約書も荒川区が作成したのなら、仲介業者を入れる意味がよく分かりません。契約書に仲介業者の記載がないのも、不自然で違和感を覚えます」
女子医大は、東医療センター「博友寮跡地」の売却で仲介業者がどのような業務を行ったのか、という質問に対して概ねこのように答えた。
販売活動、博友寮の謄本・公図・隣地所有者の入手、契約までのスケジュール、荒川区との協議の中で他に1社売渡承諾書を希望した会社があることの証明、荒川区との協議の場への同席 (毎回)、売買契約書及び重要事項説明書の作成 (結果的にいずれも使用されなかった)、荒川区土地開発公社側が作成した売買契約書の確認、路線価格公示価格等の調査等(*回答から抜粋)
多くの業務が羅列されているが、仲介業務として最も重要な「買主を探して売買契約を締結する」という点がすっぽり抜けている。これでは業務の実態はなく、“偽装仲介”といわれても仕方がないのではないか。