“買主を探す”必要性はなかった
土地取引の「仲介業務」について、明海大学不動産学部の中村喜久夫教授は次のように解説する。
「売主から依頼を受けた仲介業者の仕事は、買主を探して売買契約を締結することです。その際、仲介業者には、(1)買主に重要事項を説明する、(2)契約成立後に37条書面(いわゆる契約書)を交付する、という義務が宅地建物取引業法で定められています。ただし、買主が国や自治体で、公園や道路など公共用地の場合は、宅建業法の適用除外となり、(1)と(2)を行わないこともあります」
実は荒川区では、一帯を広大な宮前公園とする整備が2016年から始まっていた。荒川区の横山幸次議員によると、「博友寮跡地は公園の中心部に位置していたので、荒川区が買主になることは既定路線だった」と語る。
つまり、「博友寮跡地」の“買主を探す”必要性はなく、契約の際の説明義務もない。そのほかに考えられる仲介業務は、売却価格の交渉くらいだろう。実際、稟議書には交渉によって、当初の見込額よりも約1.3億円も高く売却した、と記してあった。
「売却額について荒川区と協議に協議を重ねて参りました。本学にとって売却益が出るよう交渉し続け、(中略)交渉結果を導きました。これは、博友寮の近隣路線価約27万円/㎡(→約3.7億円)に対し、約36.8万円/㎡(→約5億円)での取引にあたります」
(*2018年11月13日稟議書より抜粋 太字は筆者)
もし、本当に約1.3億円も売却価格をアップさせたとしたら、相当な凄腕だろう。一体、荒川区を相手に、誰がどのような交渉を行ったのか、女子医大に質問すると、こんな回答が返ってきた。
「土地価格は地形、道路付け、位置、面積等の諸条件により単価が変わってくるのも周知の事実であり、博友寮等跡地もこれらの諸条件がよいからこそ、路線価よりも高い金額で売却するに至ったということであり、誰が交渉したかどうかは関係がありません」(女子医大の回答・抜粋 太字は筆者)
「路線価」で算出された売却見込額が安いのは当然
ここでポイントになるのは「路線価」である。岩本氏が申請した稟議書では、いずれも「博友寮跡地」の売却見込み額を「路線価」で算出していた。これに関して、前出の中村教授(明海大・不動産学部)は、こう指摘する。
「そもそも路線価は相続税などの基準になるもので、実勢の地価よりも2割以上安いのが普通です。売却見込額を路線価で算出すると、極端に安い価格になってしまいます。これは、土地取引に多少でも関わる人なら常識です」