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「最終関門」となるべき幹部社員が自ら不正に手を染めた

 具体的にはこうだ。神戸製鋼の真岡製造所(栃木県真岡市)では1970年代から、アルミ・銅製品を出荷する際、取引先が求める仕様に達していない製品のデータ改ざんが横行していた。工場で製品をチェックする品質保証部の主任部員、室長を務めたある幹部は80年代に自らデータ改ざんを行ったほか、90年代には部下に改ざんをするよう指示していた。この幹部はその後、真岡製造所長を経て、本社の専務執行役員、代表取締役副社長に上り詰めた。しかし、彼は不正を取締役会に報告することもなく退職した。

神戸製鋼が発表した「最終報告書」

 70年から旧長府工場(現長府製造所=山口県下関市)で働き、製造部の課長を務めた幹部は自らデータ改ざんを行ったほか、部下が不正を行うことを黙認していた。この幹部は08年6月まで専務執行役員を務めた。現職の執行役員3人も同様で、現場の不正を知りながら、改善策を取らなかっただけでなく、データ改ざん問題が発覚した後も会社に報告すらしなかった。

 極めて悪質だと思う。製造現場で品質をチェックする「最終関門」となるべき幹部社員が自ら不正に手を染め、その後、工場長や本社の役員になっても改善することなく、悪しき慣習は後輩に引き継がれていった。取引先が要求する強度や寸法に達していなくても、現場が「安全」と判断すれば、データを改ざんして出荷するのが当たり前になっていった。社員の法令順守の意識は鈍麻していった。

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東芝の「チャレンジ」に通底する収益改善のプレッシャー

 では、なぜ神戸製鋼は、こんな不正が日常になってしまったのか。それは社内のプレッシャーだ。「機会があれば、とりあえず受注する」「できるだけたくさんの製品を生産して利益を上げる」。鉄鋼・アルミ業界で上位メーカーと戦う神戸製鋼には、そんな企業文化があったと最終報告書は指摘している。品質検査の結果、取引先の要求を満たさない製品は、本来なら破棄するか、事情を説明し、相手が納得した場合のみ「特別採用」(特採=トクサイ)として出荷すべきだった。

記者会見で苦渋の表情を浮かべる川崎博也社長 ©getty

 しかし、神戸製鋼の生産現場には「顧客と合意した納期を遵守できなければ、顧客から損害賠償請求を受けたり、競合他社への転注を招くのではないか」とする焦りがあった。特採にすると、取引先に製品を安く買い叩かれる可能性があり、「値下げ交渉に応じざるを得なくなり、利益目標を達成できなくなることを恐れた」という。ずいぶん身勝手な理由だが、上司の命令や先輩からの引き継ぎであれば、部下や新入社員らは従わざるを得なかったのだろう。東芝の歴代社長ら幹部が「チャレンジ」の名の下、過酷な収益改善のプレッシャーを現場にかけ続け、不正会計につながったのと通底するものがある。