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「マクロン仏大統領、徴兵復活へ意欲」はミスリードだ

2018/04/03
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現行では「一切武器には触らないし、隊列訓練もない」

 まず「調査」とは、かつての徴兵検査に代わるものなのだが、現在の「調査」では一切検査は行われず、16歳で市役所に登録するだけ。18歳になると、そのリストに基づいて「防衛と市民意識の日」に召集される。運転免許や大学入学資格など、あらゆる国家試験には、この日の参加証明書が必要となる。

「防衛と市民意識の日」は、「防衛精神の強化と国民共同体への所属感の表明、軍と青少年の絆の維持」を目的とするのだが、実際の内容は次の通りである。

・国防の課題と目的。軍および民事防衛への志願の案内
・市民意識:フランス国民としての権利と義務
・献血
・交通安全
・フランス語基礎学力調査

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 すべて、軍の管轄のもとに行われるが、一切武器には触らないし、隊列訓練などもない。

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 次に、「旗のもとへの召喚」とは軍役のことを指す。フランスでは1997年に徴兵制が廃止されて以来、志願者と予備役だけの義務となっているため、現行法で徴兵制は義務化されていない。

 最後に「民事役務やボランティア」について。フランスでは「防衛」に「軍事」(militaire)と「民事」(civile)の2種類がある。「軍事防衛」は軍隊、「民事防衛」は消防や災害救助、復興支援などを意味し、「民事役務やボランティア」は後者の内容を指す。

マクロンが兵役を理想化していることは否めない

 そもそも「service militaire universel」(兵役)の提案は、大統領選のマクロン候補の公約だった。ただし、マニフェストにはじめから書かれていたわけではなく、2017年3月18日の演説で発表された。あの頃、世論調査では、スキャンダルで失速した共和党のフィヨンを引き離し、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペンを1ポイントだけ上回っている状況だった。まだまだ右派の票を集める必要があったのだ。

 また、マクロン大統領にはフランスのエリートにありがちな「ドゴール的強兵主義的傾向」がある。彼はエリート学生だったため兵役免除になり軍隊経験はないが、それだけに、兵役を理想化していることは否めない。

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 しかしながら、マクロン大統領が1月30日の挨拶で語った「service national universel」とは、「青少年に、階級、出自、性別の違いなく赴く出会い」の場を、そして「社会的、環境的、文化的分野での守るべき大義と行うべき戦い」を与えるものだという。その目的は、他人の痛みに無関心になりがちな現代社会に連帯を復活し、人種や民族をこえた国民の結束(一体感)を高めることだという。

 いずれにしろ、マクロン大統領自身の言葉で徴兵復活は否定されている。国民議会(下院)での国防省長官(副大臣)答弁でも、国防軍事力委員会報告でも、「徴兵制は復活しない」と明言されている。