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 イタリアでは主催者に「長いと観客が飽きるので1時間半にして欲しい」と言われました。でもイタリア・オペラには3時間の公演もあります。そう指摘したら、「オペラは物語があるし、動きもあるから大丈夫なんだ」と。

 ニューヨークの“音楽の殿堂”カーネギーホールは、奏者へのリクエストに対しても、有無を言わさぬ迫力がありました。

 最初、私が尊敬する作曲家・三善晃先生のピアノ・ソナタをプログラムに入れていました。せっかくのカーネギーホール・デビューですから、日本人の作品を弾いてみたかった。でも、「マスター・ピースを弾いてください」と言われ、結局、モーツァルト、リスト、ブラームスなどメジャーな曲を選びました。

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(4)海外公演に必要な三種の神器

 私にはコンサートの時に持ち歩く“三種の神器”があります。持ち運び可能な小型の加湿器とヒーター、そしてカイロの3つです。

 なぜこの3つが必要か。例えば東京のサントリーホールでしたら、夏でも28度に温度を設定できます。しかし毎回、そんな素晴らしいホールばかりではありません。特に私はヨーロッパの音楽祭に出演することが多いですから、石造りの教会で弾くことも、森の中の野外ホールで演奏することだってあります。

ロッケンハウス室内楽フェスティバルに出演 ©Niklas Schnaubelt/Kammermusikfest Lockenhaus

 カイロは常に2個常備して右手と左手を温めておきます。ヒーターは楽屋のピアノの傍に置き、乾燥し過ぎないように加湿器を設置する。これが公演前のルーティンです。

 導入したのは、今年の春からです。プレッシャーのかかる大きな公演に呼ばれることが増え、ありがたいことにお客さんも増えてきました。どの国の公演にも来て下さる外国のファンの方もいます。

 皆様の期待に応える演奏をしなくてはならない。その責任感から、この3つを揃えることを思いついたのです。

(5)酒もタバコもやめました

 コンサート直前だけでなく、日ごろの体調管理も大切にしています。

 尾籠な話で恐縮ですが、私はお腹が緩い人間です。キムチなど辛い食べ物や、脂たっぷりの食事の後は、よくトイレに駆け込んでしまいます。先日、韓国のテグ公演の後もそうでした。無事に本番が終わり、ホテルでヤンニョムチキンを食べたんです。すると翌日は下痢がひどくて……。朝の出発便で帰国したのですが、空港でも飛行機でも、何度もトイレに駆け込む羽目になりました。

 公演後ならいいですが、公演前だったら大変なこと。その他、カフェインを摂り過ぎないなど、公演前は特に食事には気を使っています。

 お酒も特別な時にしか飲みませんし、タバコも止めました。以前はタバコは一日1箱のペースで吸っていたんです。恩師の野島先生が愛煙家で、少しでも先生に近づきたいと思って、喫煙所に通い始めた。銘柄は最初はピース。マルボロ、メビウスときて、最後はアイコスでした。特に公演後の一服が楽しみで。

 ただ、周囲から「やめなさい」と言われ、禁煙を決断しました。

 酒も飲まないし、タバコも吸わない。いまは健康体そのものです。

本記事の全文「私が大切にしている10のこと ピアノは自分をよく見せるために使わない」は、『文藝春秋 電子版』に掲載されています。藤田さんがゲン担ぎに食べる料理、横浜ベイスターズへの思いなど、残り5つの「大切にしてきたこと」も必見です。