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志ん朝の『愛宕山』で説得力のある演技を知った

喬太郎 ところで、うちの大師匠小さんも剣術家だったけど、東出さんも剣道されるんですよね。お好きな剣豪、名人なんているんですか。

東出 塚原卜伝も好きですし、山岡鉄舟も斎藤一、鐘捲自斎も好きです。最強というなら上泉信綱か、現代剣道の祖となった千葉周作か。名人という意味では、斎藤一の逸話が好きですね。警視庁の撃剣の猛者連中が、下宿先の木にぶら下げた缶を突く練習をしていたところ、通りかかった老人が「そんなんじゃ突けん」と言って、木刀でハッと突いてフッと抜いたら、ピクリともしなかった缶に穴が開いていて、あとで聞けばそのおじいさんこそ斎藤一だったという。名人には何か、そういったロマンのようなものも必要なのかなと思います。

そばはこうやって……

喬太郎 まさに名人伝ですね。演じてみたい剣豪はいます?

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東出 ぼくは身長が高いので、いずれ山岡鉄舟はやってみたいです。そう、時代劇にかぎらず、噺家さんの所作とか表現力は役者にとって素晴らしく参考になりますね。志ん朝師匠の『芝浜』。手ぬぐいを浜で拾ったヌメった革財布に見立てて、ブルルッってほどいて中の小銭を出すところとか、何度見てもかっこいい。『愛宕山』で、小判を30枚崖下に投げて、それを拾うシーンの身振り手振りも最高。志ん朝師匠の場合はちゃんと30枚分拾ってみせるんですよね。「芸術は細部より成る」と言いますけど、まさに説得力のある演技ってこういうことなんだよなって思います。

そうそう

圓朝作品はシェイクスピアに通ずる

喬太郎 見えてなくても、わかってもらえなくても、やっておくということですね。東出さん、高座にあがってみたいとは思いませんか?

東出 芸がない自分には絶対ムリです(笑)。以前、談春さんがインタビューで「芝居のセリフが頭から抜けない」って仰っていたんですけど、噺家との違いってここにあるなあって感じたんです。

喬太郎 おお、面白いですね。どういうことですか?

東出 僕の場合は、次々と別の人物を演じていくので、セリフを忘れてしまうことが多いんですけど、噺家さんは一回入れたものを出さない身体になっているのではと。そうして取り込んだものが「芸」と呼ぶべきものなんじゃないかと、これは僕の勝手な考えですけど。

よっ、うまいね!

喬太郎 なるほど、いいこと伺えた気がする。実は僕、今度『たいこどんどん』っていう井上ひさしさん原作の舞台に、たいこもちの役で出るんです。そうか、役者と噺家の違いって、面白いな。東出さんは演じてみたい噺家なんていますか。

東出 噺家さん役というより、落語が映画になるとか、1時間の尺になるなら、やってみたいものがいっぱいあります。落語の神様、三遊亭圓朝の話の骨組みはシェイクスピアに通ずるようなものがあると思います。いろいろな状況に置かれた市井の人々を出発点に、各人物像を丹念に描いて、かつ、さまざまな過程がすごく壮大に描かれ、オチもしっかりしている。

喬太郎 圓朝作の『牡丹灯籠』『真景累ヶ淵』は様々な人物の因縁が絡み合うまさに壮大な物語ですし、親しみやすいところでは『死神』も圓朝作品。いいですね、東出版「圓朝噺」。これはいつか観たい。

 

写真=佐藤亘/文藝春秋

やなぎや・きょうたろう/1963年、東京都生まれ。書店員を経て、89年、柳家さん喬に入門。2000年に真打昇進。創作新作落語に『ハワイの雪』『ハンバーグができるまで』『夜の慣用句』など。5月5日から舞台『たいこどんどん』(紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA)に主演。

 

ひがしで・まさひろ/1988年、埼玉県生まれ。高校時代からモデルとして活躍し、2012年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。フジテレビ系ドラマ『コンフィデンスマンJP』に出演。また主演映画『OVER DRIVE』(6/1公開)、『寝ても覚めても』(9/1)が公開予定。Eテレ『落語ディーパー!』が5月6日(日)0:00〜0:50 放送予定。