組長の誕生日には1億円の上納金...「直参」が募らせた不満

 きっかけはやはりカネだった。暴力団組織はいずれも傘下組織からトップに対して、警察当局が上納金と呼ぶ会費を納めることとなっている。

 6代目山口組では、「直参」と呼ばれる直系組長による上納金は毎月、百数十万円とされている。このほかに、盆暮れや6代目山口組組長である司忍の誕生日の1月には、毎月の上納金とは別に5000万円や1億円を納めることとされた。

6代目山口組組長の司忍 ©時事通信

 組織犯罪対策を担当している捜査幹部は分裂の原因について、「上納金などのほかにも次々と要求されるカネの徴収に対して直参たちが不満を持っていたのは間違いない。6代目体制になってさらにカネのかかる組織になった。表経済の低迷などからシノギ(資金獲得活動)が厳しくなっても、上納しなければならない。その不満が蓄積していた」と指摘する。

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 この捜査幹部は、「名古屋方式の組織運営も不満だったはずだ」とも強調する。名古屋方式とは、名古屋に拠点を置く弘道会による支配を意味する。

「5代目体制は良くも悪くも自由な面があった。しかし、6代目体制になると中央集権的な運営となり統制が厳しくなった。これも不満を持った一部の幹部たちの反発を買った」(同前)

弘道会出身者によるツートップ体制で

 統制の厳格化を象徴する人事が、若頭の人選だった。5代目時代までの山口組では、組長と若頭は別の傘下組織出身者が就くことが慣例だった。

 5代目組長の渡辺は山健組出身で、ナンバー2の若頭の宅見は宅見組出身だったが、これは組織内の権力の均衡を保つ知恵とされた。

 しかし、6代目組長の司は、自らの出身組織の弘道会から高山清司を6代目山口組の若頭に抜擢。ツートップを弘道会出身者で独占したのだ。以後、若頭の高山を中心として組織の規律を重視した運営がなされることとなる。

 実際に、一部で造反の動きがあった際に、高山は素早く処分を下して、不穏な動きを鎮圧したこともあった。組織の隅々にまで目を光らせた弘道会出身者によるツートップ体制は、盤石かに見えた。