気になる本編の蝶子さんと寅さんの関係

 渥美さんは本番以外、静かに身体を休めていました。それでも気さくに声をかけてくださり、海沿いの食堂へ磯汁を食べに連れて行ってくれまして。地方のお店に詳しいのは、津々浦々を旅している寅さんだから?なんて思ってみたりも。

 満男と泉(後藤久美子)を海辺で見守りながら、2人で『港が見える丘』をデュエットするシーンも素敵でした。蝶子が、

「あなたと二人で来た丘は」

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 と、口ずさむと寅さんが自然に応じます。

「港が見える丘 色褪せた桜唯一つ 淋しく咲いていた」

『男はつらいよ 寅次郎の青春』(1992年、山田洋次監督)

 渥美さんの抑えた優しい声がいいんです。山田監督に「さすが歌手ですねぇ」なんて褒めて頂いた時は恐縮しちゃいました。

 撮影後、私や沢田研二さんが出演した舞台『漂泊者のアリア』をNHKホールまで観にきてくださったのも忘れられません。まだまだお元気で、寅さんも続いていくだろうなって思っていましたから、3年後の訃報は信じられませんでした。

 気になる本編の蝶子さんと寅さんの関係ですが、私はフラれちゃったんだと思います。最初に頂いた台本では寅さんと油津でお別れした後、彼女は急に結婚して博多に去るのではなく、寅さんに連絡を取るような流れだったと記憶してます。その本通りだったとしたら、2人の“その後”は、どうなったんでしょう。柴又に彼女が開いた理髪店で“髪結いの亭主”になる寅さん(笑)。そういう場面を想像しながら、『寅次郎の青春』をまた観返そうと思います。