渋滞を狙ったテロも、アフリカではあまり例を見ないが、ちょうど私が外務省に出向していた時期にパキスタンで起きた。主要都市カラチの市街地から空港に続く幹線道路で、元首相のパレードが行われて道路が混雑していたところ、自爆テロが発生したのだ。車と人のひしめき合うなかだったため、犠牲者の数も数えられないという戦慄すべき報告を受けた。報道ではおよそ百数十人が死亡したと言われているが、肉片だらけで、正確なところはまったくわからなかったらしい。
大使や国会議員の移動ルートを守る
物騒な話が続いたが、途上国において移動ルートの安全を保つというのはこれほど重要なのである。大使館の幹部級となると、どこに行くにしてもルートを最低3パターンは用意する。同一のパターンを繰り返せば、テロリストや誘拐犯に行動を読まれてしまい、突然の銃撃といった不測の事態に遭遇しやすくなるからだ。
そのため、ルートを変えられる程度に前進警備の車を走らせ、異常がないかチェックさせる。反政府デモは起きていないか、武装した怪しい集団はいないか、渋滞は起きていないか、そうしたことを報告させる。後続する本隊には武装警備を随伴させ、いざというときにはルート変更を指示したりして、安全を確保する。
大使だけでなく、日本から大臣や国会議員が訪問する際にも、こうした警備体制をセッティングし、実行する。ルート設定のために、犯罪多発地域の情報は常にアップデートしなければならないから、現地警察や民間警備会社から最新の情報を手に入れなければならない。
こうして、2つ目の任務である情報収集が必要になってくる。私が監修したドラマ『VIVANT』に登場する自衛隊の秘密組織“別班”のような業務である。警察出身者は、警備対策官か領事として赴任するが、防衛省出身者は防衛駐在官、または警備対策官か領事という職位が与えられることもある。いずれについてもいえることだが、基本的には自国日本の国益や権益に対する脅威についての情報を集めている。
ただ残念ながら、日本の場合、アメリカやイギリスに匹敵する大規模なインテリジェンス活動とは言いがたい。日本の在外公館でやれることは、基本的な情報収集とその分析だ。