そんな中、安定的にロシアだけの肩を持ち、かつロシアと同じ152ミリ口径の弾を何百万発も提供してくれる国は、北朝鮮以外にはないんですね。北朝鮮はもともと、海外のさまざまな国に旧ソ連口径の弾を売るビジネスをやっていたようなので、彼らにしてもロシアはビジネスの相手にはまさにうってつけです。加えて、北朝鮮は軍事的、政治的な後ろ盾としてロシアを利用して、より国力を強化させたいという思いもあったでしょうね。
北朝鮮からロシアへの武器輸出
――ロシアと北朝鮮のお互いの利害が一致している印象ですね。
小泉 ただ、それがこれから先も続く恒久的なものになっていくかはわからない。同じ社会主義国家とはいえ、冷戦期からソ連と北朝鮮はお互いに不信感を持ちあっていた。
そもそも北朝鮮は、中国とソ連の間を行ったり来たりして、冷戦後もそうした流れは続いていました。ウクライナ戦争を機に、露朝が一枚岩になるわけではないと思うんです。それは中露、中朝の関係も同じで、ガチッとした一枚岩の同盟をそもそも彼らは想定していないし、そうなる気もないでしょう。その時々の状況に合わせて、同盟相手を組み替えていくイメージだと思います。
長谷川 中露と露朝、その2つの関係性だけでもだいぶ違うと思います。中露の場合は2000年代初頭から対テロの演習をしたり、海軍の合同演習をしたりして、ある程度は関係性の積み重ねがありましたよね。近年では、2018年のロシア東部軍管区におけるボストーク演習に中国が部隊を派遣するなど、中露の軍事関係は制度化しています。
一方、ロシアと北朝鮮両軍はそうした積み重ねが乏しい、というかほぼなかった。また、両国ともにトップに権力が集中していて、労働者派遣などの除いて人的交流もあまり見られなかった。両国とも、特殊な国際環境にあるからこそ急速に接近しているが、また国際環境が大きく変わった場合には、果たして持続可能性があるのかどうか。
(この対談は1月15、16日に配信された「文藝春秋PLUS」オリジナル動画をテキスト化したものです)
※この対談のノーカット版(16000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています。
■ウクライナ戦争開戦から3年 小泉悠氏・長谷川雄之氏対談
・第1回 ウクライナ戦争の3年を総括する…なぜ戦況は「膠着状態」なのか?
・第2回 ロシアは「北朝鮮抜き」でこの戦争ができなくなった
・第3回 トランプ米大統領は、ウクライナ戦争を本当に止められるのか?
