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中国の“監視社会化”は本当にコワいのか? 中国人の意識の低さをナメてはいけない

「B級中国 vs.S級中国」中国ITへの過大評価をぶった切る #2

note

アリペイよりも「Suica」の方が便利?

山谷 中国IT関連の微妙な言説といえば「中国の都市部のキャッシュレス率は98.3%」というものもあります。でも、常識で考えてそんなわけがない。

安田 QRコードを使ったキャッシュレスの普及は事実ですが、体感として98.3%は多すぎますね。なんでこんな数字が?

山谷 かいつまんで言えば、フィナンシャルタイムズの適当な独自調査を、新華社が「中国が褒められている!」とばかりに外電で伝え、さらにその記事を人民日報日本語版が日本語に翻訳した。それを日銀レポートが引用して、TechCrunchが記事を書いて、あとはネット上の意識が高い人が「中国スゴい」とこの情報を拡散しているという地獄絵図です。

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安田 完全に伝言ゲームの世界ですね。というか、日銀のレポートって意外と適当な情報が混じってるんだな……。

山谷 ちなみにオフィシャルな数字では普及率は約43%となっています。

「中国すげーぜ!(意訳)」とタイヤに書かれたofoの車両。S級中国の旗手のシェアサイクルが、ユーザーの預り金を返さずB級中国へ転落(2017年11月山谷撮影)

安田 ほか、「QRコード決済の普及は中国に偽札が多いからだ」という俗説もありますね。実際のところは、それでしか利用できないサービスがあったとか、春節にネット企業が金をばらまいたというのがきっかけで普及した面も大きそうですが。

 あと、中国は(銀聯以外の)カード決済の普及や全国をカバーできる非接触型ICカードの普及が遅かったので、後発のQRコード決済が先に広がった面もある。QRコード決済は店舗側にカードリーダーの導入コストがほぼないことも普及を後押ししたでしょう。

山谷 そもそもアリペイやウィーチャットペイの魅力は、シェアサイクルとかシェアライド(Didiなど)などの有料オンラインサービスとの連携や、オンライン上での支払いや送金が便利な点にあります。なので、店舗でのキャッシュレス決済の利便性だけで考えるなら、実は「スイカ」のほうが便利なんですよ。