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ウェブメディアで“しんどい”のは「品質管理」

安田 「50歳の壁」は、僕らが将来を考える上でも切実です。大学の常勤ポストを得る、インバウンドみたいに需要の大きいジャンルに積極的に入って講演やコンサルで稼ぐ……あたりが、50代からの中国ライターの望ましいキャリアなのかなあ。

山谷 僕の場合は、企業向けの調査レポート作成や企業が抱えるメディアでの記事など、もうちょっと専門的なものを書く比率が増えてきています。

安田 僕は何でも屋で、しかも経済分野にさして強くない。「50歳の壁」で淘汰されやすいポジションなので怖いですよ。もともとブロガー出身ですし、面白いネット記事をバズらせる快感が好きなので、ネットメディアを作る側もやってみたいなーと思ったりします。

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山谷 業界として、以前と比べて稼ぐのが難しくなりましたよね。僕がデビューした2002年のころは、それ以前よりも出版不況だったとはいうけど、それでも気楽に記事を掲載してくれて門戸が広かった。ギャラも基本的人権がある価格だったし(笑)。

 SNSもウェブメディアも少なかったし、記事といえば紙メディアの記事だった。競争が今ほど激しくないから、そこそこの記事を書けばよかった。今は文春オンラインも含めて、求められる記事のハードルが高い。

VRとお化け屋敷が隣り合う昆明郊外のB級遊園地(2018年11月山谷撮影)

安田 ハードルと言うか、ウェブ記事で最もしんどいのは「品管(品質管理)」ですよね。これは記事を書いた経験がある人ならわかる話ですが、うっかり単位を書き間違えるとか、地名を誤変換するとかのプチエラーは、どれだけ気をつけても製造段階では起こり得る。

 従来の雑誌や書籍だと、編集者に加えて校閲の人もチェックしてくれるので、エラーが読者に届きにくい構造になっていた。でも、ウェブメディアは紙メディアよりも読む人が圧倒的に多いのに、多くのサイトでは校閲がほぼないんですよ(※文春オンラインは校閲がある)。

山谷 品管工程をすっ飛ばすコストカットですよね。ちなみに中国の激安製品は、これをやるから安くなる(笑)。

安田 そうです。品管工程が省かれたネットメディアの記事は、残念ながら製造段階のエラーを常に一定数含んだ状態で世間に出る激安製品や試供品なんです。でも、実際に誤記が見つかった場合は、「この書き手は信頼できない」と紙メディアよりもはるかに騒がれる(笑)。記事の主張自体が間違っているのなら仕方ないけれど、これはしんどいなあと。小さな部分まで、書き手が間違いを許されない時代になりました。

山谷 いっぽうで、紙よりも原稿料は安いから不公平だよなあ(笑)。いまは以前よりもライターとしてデビューしにくいし、ライター職を維持するのも昔よりずっと大変ですよね。

安田 それでも、面白いことを追いかけて、生き残っていくしかないんですけどね。できるだけ間違えないように頑張って。

山谷 ですよねえ。

やすだ・みねとし/1982年滋賀県生まれ、滋賀県出身。中国ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。著書に『和僑』『境界の民』(KADOKAWA)、『さいはての中国』(小学館)、編訳書に『「暗黒・中国」からの脱出』(文藝春秋)など。2018年、六四天安門事件に取材した『八九六四』(KADOKAWA)が第5回城山三郎賞を受賞。

 

やまや・たけし/1976年東京都生まれ。中国アジアITジャーナリスト。中国雲南省昆明を拠点に、アジア各国の現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を配信。「山谷剛史の「アジアIT小話」」、「山谷剛史のマンスリーチャイナネット事件簿」、「中国ビジネス四方山話」、「山谷剛史の ニーハオ!中国デジモノ」などウェブ連載多数。著書に『中国のインターネット史』(星海社新書)、『新しい中国人』(ソフトバンククリエイティブ)など。講演もおこなう。