1ページ目から読む
4/5ページ目

1960年代生まれが多い中国ライター

安田 ところでさっき言及した姫田小夏さんの記事ですが、個人的にはちょっとショックなんです。姫田さんは数年前までは、玉石混交が激しい中国関連言説のなかで、かなりちゃんとした現地事情レポを書く方でした。

山谷 90年代から中国におられて、現地のことをよく知っておられる人なんですよね。僕も従来は「信頼できる書き手」という印象だった。

安田 今回の例に限らず、ここ2~3年くらい、これまで業績を上げてこられたベテラン中国ライターの勝ち負けがはっきりしてきた。

ADVERTISEMENT

山谷 それは完全に同意です。すごく思う。

安田 中国ライターの年齢的なボリュームゾーンって、ほぼ1960年代生まれ、中国で言う六四天安門事件世代なんです。バブル期の日本社会で大学生になって、海外放浪・海外在住ブームに乗ったり留学したりして中国と縁が生まれて、という。

 なので、彼らは中国が鎖国状態だった時代に学生だった世代よりも語学力が高いし、中国の庶民の世界を知っている。いっぽう、同年代の問題として天安門事件を体験しているので、中国の肌感覚の怖さもわかっている。そこに凄みがあります。

山谷 確かにこの世代は5、6人ぐらい、大物どころの中国ライターが集中していますね。

昆明市内の最新モールに導入されるフロアガイド端末はWindows搭載パソコン。しばしばソリティアなどアブノーマルな使い方も(2018年10月山谷撮影)

中国ライター「50歳の壁」説?

安田 一般的なフリーランスのライターは、編集者が同年代よりも年下になっていくことで仕事が減る「40歳の壁」があると言います。中国ライターの場合は、まっとうな人の場合は語学力や専門性があるので、一般のフリーライターよりも稼働寿命が長いんだと思う。でも最近、「50歳の壁」はあるのかもしれないと思えてきた。

 特に現在の中国はスマホ社会になって、世の中が変動するスピードが異常に速いので、追っていくのが相当しんどいのも事実です。現地で情報源になってくれている中国人の友達も、同じように年をとっていく。僕にしても中国の現代大学生事情なんかは、もうまったくわからないですもん。

山谷 天安門世代の中国ライターが精彩を欠くようになったのは、現地に在住して情報発信してきた人が帰国したことも大きいと思うんです。

安田 天安門世代のベテラン中国ライターにも、現地から原稿を書いておられた人が何人もいました。それは国内にいるライターでは決して書けない情報だった。でも、ここ数年間でほぼ全員が帰国してしまったんです。

山谷 帰国した人が多いのは、中国の物価がめちゃくちゃ上がってるからやっていけなくなったのもあると思う。僕の拠点の雲南省でも高くなりましたもん。昔はチャーハンが日本円で50円くらいだったのが、今は160円。ちゃんとした食事をすれば、100元(1600円)札が何枚も飛ぶようになった。家賃も上がっています。

 昔は2、3本連載があればメシを食えていたんですが、今は中国で連載を持って暮らしていくのも大変です。日本の国力の低下や、日中両国の経済格差の縮小は、僕みたいな現地在住系の限界ライターにも影響しているんですよね。