【イベントレポート】続・経営企画部門の重大責務 価値を創る、未来を示す、全社戦略推進の枢要部

■企画趣旨

2023年10月に開催をしたカンファレンス「経営企画部門の重大責務」では、経営企画部門が担う「戦略的なビジョンの策定と実行」「環境変化の予測と適応」「リソースの最適な配置」「KPI管理」「組織内連携の強化」など、将来の成長や競争力を確保するために、組織の戦略の方向性を示す重要な役割について、人材・予算・時間といったリソースの最適配置の観点から考察をしました。

当カンファレンスは1000名を超える参加をいただき、経営企画部門に対する期待とともに、多くの課題があることを浮き彫りにしました。

2025年を迎え、働き手不足の加速(2025年問題)、既存システムの更新問題(2025年の崖)、地政学リスクの増大など経営課題が山積する中、改めて経営のかじ取り役である経営企画部門への期待が高まりを見せています。

その役割として「戦略策定と実行の統括」「ビジョン、ミッションに基づいた中長期戦略を立案」「戦略に基づく具体的な施策の実行と進捗管理」「経営データの分析」「部門間調整による全体最適」「全社横断的なプロジェクトの推進」「リスク管理」「サステナビリティとESG経営の推進」「ステークホルダーとの対話」「DXの加速」「イノベーションの推進」「従業員エンゲージメント」など多岐にわたり、マネジメントと一体となり「未来を創る力」を発揮していくことが不可欠となっています。

そこで本カンファレンスでは、「続・経営企画部門の重大責務 ~価値を創る、未来を示す、全社戦略推進の枢要部~」をテーマに、事業成長の要としての役割、成果を享受していくための仕組みづくりについて整理し、経営企画部門に求められる真価とは何かを有識者、実践者の講演を通じ考察した。

■基調講演

改めて考える、経営企画部門の価値と責務
~ 全社戦略と事業ポートフォリオマネジメントからの視座 ~

東京都立大学大学院 経営学研究科 教授
東京都立大学 経済経営学部 教授
松田 千恵子氏

(株)日本長期信用銀行にて国際審査、海外営業等を担当後、ムーディーズジャパン(株)格付けアナリストを経て、(株)コーポレイトディレクション、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(株)でパートナーを務める。一橋大学大学院特任教授。事業会社の社外取締役、政府等の委員を務める。東京外国語大学卒業、仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院経営学修士、筑波大学大学院企業科学専攻博士課程修了。博士(経営学)。

◎コーポレートガバナンスが促すマネジメントの変化

まず、日本企業を巡る環境変化について。「経営」システムとその考え方を丸ごと置き換えなければならなくなって久しく、経営力の強さが求められる状況だ。事業/組織(人的資源)/財務(物的資源)を合一させ、企業価値を向上させる経営が必要である。

本社の役割は昔とは変わっており、日本企業が「本来の経営」をしなければならなくなってきた。投資家的な視点/経営者的な資源/シナリオ構想力と質問力/非連続的な発想力/現実を直視できる力/議論から得た結論を実行できる力/コミュニケーション能力とリーダーシップ力……これらがコーポレート機能として必要な力=経営力だ。経営トップの意志決定を支えるプラットフォームとして、コーポレート機能は経営力を発揮しなければならない。

コーポレートガバナンス改革は、2023年のエクイティガバナンスの実質化から新しい局面に入っている。東京証券取引所(以下、東証)によるPBR1倍割れ企業への強い要請や金融庁のフォローアップ会議による「アクションプログラム」などにより、毎年、企業は進捗を見られることになった。

取締役会の役割が重要だ。取締役会は、中長期的な企業価値の向上と持続的な成長のために経営者を規律付けることを目的とすべき。「監督」と「執行」の間でのコミュニケーションを相当確保する必要がある。取締役会が議論すべき最も重要なことは、「会社の目指すところ」、経営戦略である。

そのために取締役会が実質的に討議を充実させるべきことは、経営資源配分、事業ポートフォリオ戦略実行の監督/サステナビリティ課題への対応、基本方針の策定と開示/内部統制、全社的リスク管理体制の整備状況の監督、である。

経営の全体系がユニークかつシンプルで、全ての従業員が共有する「大黒柱」になっているだろうか? Vision⇒Value⇒Missionとつながる、柱となる目標と価値観、道筋は明確化したい。しかし、取締役会で長期の経営戦略、中期の経営戦略・経営計画についての議題に割いている時間は全体の約2割という調査結果がある。これでは非常に少ない。

確かに「会社の目指すべきところ」を考える上でのハードルは多い。いくつか例を挙げる。企業理念のレベルでは、自社ならではのものになっているか?「困った時」に頼れるか?様々なカタカナや英語が氾濫していないか?「階層」が多すぎないか?

ビジョン・経営戦略のレベルでは、取締役会だけではなく執行側でも十分に議論をしているか?中期経営計画は本当に経営戦略のレベルに達しているか?(経営戦略とは(1)「立地」の特定、(2)「ゴール」の決定、(3)「シナリオ」の選択、(4)「事業経済性」の担保、(5)「ビジネスモデル」の確立、(6)「競争優位」の連続的獲得、(7)「経営資源配分」の意志決定)。

経営戦略・マネジメントシステムズのレベルでは、事業戦略だけではなく、全社戦略を議論できているか?経営戦略の議論を支えるデータインフラとマネジメントサイクルは機能しているか?イノベーションを生み出す組織や意志決定プロセスを、既存の事業や管理と混在させていないか?前述の要素が揃ったうえで、経営者としての意志決定が下せているか?といった数々のハードルが考えられる。

◎収益性と成長性を意識した経営

コーポレートガバナンス実質化に向けたアクションプログラムの中において重要視されているのは「収益性と成長性を意識した経営」だ。資本コストの的確な把握や、それを踏まえた収益性・成長性を意識した経営(事業ポートフォリオの見直しや人的資本・知的財産への投資、設備投資など適切なリスクテイクに基づく経営資源の配分を含む)を促進する、という取組内容である。

中でも「事業ポートフォリオマネジメントの見直し」は、東証のコーポレートガバナンス・コードなどにおいて常に名指しされている。企業の戦略策定能力の巧拙が最も出る分野で、投資家との乖離が大きい分野でもある。事業ポートフォリオの見直しに厳しい目が向けられるのは、株主が資本市場で行う投資ポートフォリオマネジメントとバッティングするからだ。

事業ポートフォリオマネジメント、事業シナジーマネジメント、企業アイデンティティマネジンメントの3つを適切に行い、全社戦略を構築・遂行するために、グループ経営における本社の役割はますます問われるようになる。

では、「収益性と成長性を意識した経営」「事業ポートフォリオの見直し」は進んでいるのだろうか?企業価値向上への要請に対する上場企業のスタンスはかなり異なってきており、当局や投資家も注目している。自律的に取り組みを進める企業/今後の改善が期待される企業/開示に至っていない企業が見受けられる。投資家の期待と目線合わせをするためには、ベストプラクティスより「ダメ開示」が効果的なのかもしれない。

先進企業の変革の結果、世の中は動き出している。事業ポートフォリオマネジメントの先にあるのは「業界再編」の波だ。ノンコア事業の売却/コア事業における事業戦略の見直し/他社やアクティビストによる働きかけ、が起こる。もちろん企業だけの問題ではなく、経済・社会システムや規制のありかたの再考も必要だ。

ではどうしたら良いのか?資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて求められる対応に関しては、東証の「投資者の視点を踏まえたポイント」に、解説と実際の取り組み事例が公表されている。

当該資料を補足すると、「現状分析」については、SBU(戦略的事業単位)の設定検討が不十分であることが多い/事業戦略がない・事業戦略の説明性に乏しい/事業リスクが分からないので財務カバーを的確に評価できない、といった課題があると考える。

計画策定・開示」については、取締役会で議論することが少ない/現状分析の不足により議論が錯綜する/投資家的な視点が不足している、などの、「取り組みの実行」においては、開示が目的化する/投資家との積極的な対話が実はなされていない/本社機能が正しく今日かされていない、といった課題がある。

事業ポートフォリオマネジメントによる再成長は、企業のみならず、社会・経済システムや資本市場、さらには個人の問題でもある。しかも、これらのカテゴリー自体が一様ではない。先進企業においては、事業ポートフォリオマネジメントの議論自体はすでに当たり前であり、それが影響を及ぼす(はずの)成長投資とリスクテイク、そのための執行機能強化、経営人材育成などに焦点は移っている。

◎サステナビリティを意識した経営

サステナビリティ開示の好事例集の公表などを通じてサステナビリティ課題への取り組みを促進する、女性役員比率の向上など取締役会や中核人材の多様性向上に向けて企業の取組状況に応じて追加的な施策の検討を進める、といった内容の取組も重要だ。米国のトランプ大統領による揺り戻しに安易に追随することは、今後最も重要になる人的資本の獲得に影響を及ぼす可能性もある。

人的資本は個人のものである。活かすにあたり経営戦略と連動するのは当然のことだ。また、人的資本資源活用を考えるのは労務ではなく経営の仕事だ。先進企業を中心に大きな変化は既に始まっている。役員クラスは、経営者層の育成・獲得・登用/経営を担うチームの組成と多様性の確保/取締役会・締め委員会・経営会議の実効性強化、に注力してほしい。

立ち戻るべき基本はやはり「経営理念」に始まる経営の体系である。

多岐にわたり話したが、今日からできることを一つでも始めることが、明日の変革を生む。

■課題解決講演(1)

インテリジェント経営で拓く企業価値の未来
~CCH Tagetikと共に実現する経営企画部門の戦略的変革~

Tagetik Japan株式会社
パートナー・アライアンス・マネージャー
柴田 真友子氏

大手外資系IT企業等で外資ERP/EPMパッケージに関する導入・提案・ビジネス推進を20年以上にわたり経験。Tagetik Japan入社後は、ビジネス開発マネージャとしてパートナーアライアンスを軸に、CCH Tagetikのパートナー企業による提案・導入を支援、パートナーによるビジネス拡大を推進中。

CCH Tagetikは、経営管理専門のソリューション。グローバル企業のCFOや経理・経営企画、事業部のリーダーが、より良い情報に基づいた迅速な意志決定で戦略を推進するための、データドリブンな経営管理プラットフォーム(EPM/CPM)である。Tagetik Japanの日本でのビジネスパートナー数は60社以上で、導入コンサルタントは1000名以上。日本の売上Top10企業のうち半数に採用いただいている。

 ◎経営情報統合の必要性

日本企業のPBRやROIC(投下資本利益率)は改善中だが、海外企業との差はまだ大きい。企業価値向上へ向けて「稼ぐ力」と「成長」の両面から持続的な改革が必要だ。ROEやROICの視点で事業投資のPDCAを回しながら、事業ポートフォリオを最適化したい。

ESG/サステナビリティを取り巻く環境と、非財務情報開示も加速している。第三者保証への対応や、会計監査同様の履歴管理・データ・ガバナンス基盤を整備する必要がある。ERP(統合基幹業務システム)への投資を行っていても、経営の可視化・高度化は依然として十分ではない。連結、グローバル経営、非財務情報の拡大など、経営情報の可視化の難易度は増している

CCH Tagetikは持続的な企業価値向上に向けて、業務の効率化・自動化と経営の高度化を支援する。

AIにより、変動する市場への適応力を高めて変革を遂行する必要がある。「AI投資をしてきた部門と、そうでない部門とでは2倍以上生産性に差が出る」という調査結果もある。

◎先進的な経営管理高度化の事例

導入事例紹介。日系自動車メーカーでは、CCH Tagetikを損益分析、予算管理から連結、CO2排出量分析まで約3000ユーザーで利用している。グローバル車種別ライフサイクル損益からコスト管理までを統合。グローバル経営情報を連結から明細、ESGまで一元管理している。ERPをはじめ200以上の異なるシステムと連携し、グローバル統合Financial DWH(財務/非財務、原価・明細データ)をCCH Tagetik上に構築している。

日系大手電機機器メーカーでは、ROICによる事業ポートフォリオ構築・分析と予測重視のグローバル経営管理にCCH Tagetikを活用している。グローバル全体の連結・予算管理の仕組みを刷新し、ROIC経営の実践に必要となる経営情報を一元化。経営層から現場まで、各役割のニーズに応じた経営情報を格納し、経営と事業、さらには現場も含めた対話を促進。事業セグメント別ROICにてビジネス状況を随時把握して現場レベルまでドリルダウンし、タイムリーなアクションにつなげている。

同社はグローバル経営の高度化に向けて、連結・予算管理システムも刷新した。また、グループ共通KPI・経営管理、事業別連結管理と地域軸を掛け合わせたマトリクス管理をCCH Tagetikで構築している。

大手消費財メーカーはCSRD(企業サステナビリティ報告指令)規制対応を皮切りに、財務・非財務情報をCCH Tagetikで段階的に一元管理するようになった。規制対応に留まらず、企業価値向上に向けてESG/非財務情報の有効活用と説明を行い「攻めのESG経営」につなげたのである。

◎経営管理領域におけるAIの活用例

CCH Tagetikでは、データ収集・予測・分析・報告の各プロセスに応じたAI機能の活用が可能だ。ワン・プラットフォームによる、データ活用のUX向上が実現しており、(1)データ準備 (2)原因分析・モデル作成 (3)予測作成 (4)分析・報告案作成、のすべての段階においてAIが寄与・支援する。

従来はユーザーが定義した計算ロジックによりアウトプットとなる予測が作成されたのに対し、機械学習では、大量のビジネスドライバーとの相関性をもとに、データドリブンな予測を作成することが可能だ。

例えば投資銀行でのAI相関性分析/予測では、財務/非財務を問わず150以上の変数に対する相関性をAIが分析し予測モデルを生成する。6カ月間の収益予測では99%の高い精度を実現。データサイエンティストのような専門家がいなくとも、ワークフローをベースとしたセルフサービス型の分析や予測が可能だ。
※変数やAIへの問いかけ入力によるシミュレートなど、各種デモンストレーション画像あり

CCH Tagetik 導入により“ヒト”と“AI”が協働し、より付加価値の高い仕事に集中できるデジタル環境が実現する。
・データ分析・活用のハードルを下げてデータの民主化を推進
・ユーザー主導のセルフサービス型で環境変化に迅速に対応
・PDCAサイクルを高速化させて、改善、解決に向けたアクションに注力

AIを活用した“経営管理業務の近未来”が実現する。CCH Tagetikは、グローバル競争・変化が加速する社会において、日本企業のさらなる成長のための変革を牽引する経営企画部門を支援する。

■特別講演(1)

ニチガスにおける経営企画部門(コーポレート部門)の役割と期待
~コーポレートで企業価値を創る。ガバナンス、資本戦略、IRで株価を上げる~

日本瓦斯株式会社
専務執行役員 コーポレート本部長
清田 慎一氏

東海銀行(現・三菱UFJ銀行)、オリックスグループ、小松製作所を経て、2012年に入社。ファイナンス全般に関する知識と経験を有する。入社後はIR部を立ち上げ資本市場との対話を深化させ、資本市場での当社知名度を向上させた。2023年、2024年Institutional Investorのエネルギー部門Best CFOランキングで第1位に選出。2015年に当社執行役員、2018年に当社取締役、2021年に常務執行役員、2022年に専務執行役員に就任(現任)。

コーポレート機能のプロフェッショナルは、企業価値を高める意志決定ができると考える。つまり、コーポレート(部門)で企業価値を創造できる。売上と利益がそのまま企業価値とならず、コーポレートの活動を通して企業価値として評価されるからだ。

DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)では、将来想定とWACC(加重平均資本コスト)が鍵となり、超過リターンではROICと調達コストの差が価値を創る。コーポレートによる企業価値創造の中核をなすのが、資本効率経営、ガバナンス設計、IRだ。

◎資本効率経営(株主資本のパフォーマンスを最大化する)

資本効率経営とは、投下資本のリターンを上げ、調達コストを下げることだ。投下資本のリターンを上げるには、儲かるものを増やし、儲からないものを減らす。資産の入れ替えが必要だ。調達コスト低下には、借り入れを上手く使いながら資本コストを下げる。フリーキャッシュフロー(FCF)の安定とB/Sのリスク低下が必要だ。

資産入れ替えによるROIC向上、D/E(デット・エクイティ)レシオ、FCF想定、BSのリスクを極小化していく、資本効率経営はコーポレートの設計次第なのだ。

株主視点では純利益、ROIC、ROEが最重要指標と考える。純利益で規模と成長を、ROICとROEで儲かる会社なのかを判断する。“儲かる会社”とは、P/Lの利益率が高いことではなく、投下資本利益率が高い会社だ。資本を投下しているのは株主なので、投下資本と利益の割合が重要関心事項となる。

株主が好む質の高い利益成長とは、投下資本に対する利益率を高めながら、利益を大きくすることだ。利益成長は事業部に大きく依存する。投下資本利益率の向上は、コーポレートによる設計にかかっている。その実現は、ROICとROEの向上に集約される。この二つが最も株主目線の指標だからである(例え話あり)。

同じ利益を出すなら元手は少ないほうが良いことは自明の理。出資者の立場になると「投資額と利益」の比較が重要な判断基準となる。これを企業に引き直すと、「株主資本と利益」の関係、即ちROEになる。自分の出資が有効に活用されたのかの観点から、投資家はROEを重要KPIと考える。

一方、ROICとは投資額全体と利益の比較だ。現実的には、簡単に出資と借り入れの割合は変更できない。それは「貸す側がこの貸し出し返ってくるな」と思わないと借りられないからだ。ここに、コーポレートの価値がある。「そもそも事業そのものが儲かっていなければ限界がある」という発想から、株主はROICも重視する。

ROICは資本効率経営の中核事項であり、何かと比較して大きな意味を持つ。
(1)    時系列比較⇒先行投資による低下は許容される。いつまでに改善させるのか、B/SとROICの将来計画が重要になる。
(2)    WACCとの比較⇒ROICは運用利回り。調達コストを超えるのがマスト。実務的には、意志決定者に腹落ちしてもらえるかが重要。

ROIC>WACCで価値があり、ROIC<WACCは赤字の状態。ROICとWACCの差が、経営陣が生み出した価値だ。ROICが向上してWACCが下がれば最高の状態であり、WACCの低下はコーポレートの最重要ミッションなのである。また、P/LとROICもセットで考えなければならない。将来の資産規模を示さないと株主は不安になる。

◎ガバナンス/ニチガスの資本効率経営とIR

コーポレートガバナンス(CG)で、企業価値評価は大きく変わる。投資家はCGを「株主価値の最大化を担保する仕組み」と考えているからだ。東京証券取引所のCGコードは模範例。自社に合った株主価値が向上するCGの仕組みを設計し、株主にIRやSRで説明していくことがコーポレートの重要な役割だ。

CGコードでは社外取締役は一つの論点。社外取の役割が、助言、監督に重みがおかれる中で株主に対して、株主価値向上の主体的責任を負うのは誰なのか。社外取個人による株主価値向上のレコード(記録)が出来上がって、有効に機能する仕組みなのではと考える。

当社が提案するCGは経営陣による株主保有だ。株主と経済的利害関係を一致させる。この保有が相当に大きければ、経営陣が株主価値にマイナスになる行動をとるとは考えにくい。経営陣による株主保有というCGは、10年以上のIRで投資家から強く支持されている。

持ち合い株式では、被保有の株式を縮減することも大きな意味を持つ。ROAや議決権・CGの議論も踏まえて当社はコーポレートの主導で2016年に削減を開始し、22年に保有、被保有両方を全廃し、効果大である。

当社のCGは株主価値を上げるのか?株主から賛同が得られるか?というシンプルな思想に基づく。多くの挑戦と学びを経て株価は10倍になった。P/Lの成長に加えて、コーポレートの取組である、資本政策、ガバナンス設計、IRも貢献したと考えている。投資家から高い評価を得ている理由は、資本効率経営/株主目線ガバナンス/IR、と考える。

P/Lで伝えるのは、今後の成長力とその理由。B/Sで伝えるのは、ROICとROEの改善方法。B/Sでは計画も必要で、調達の最適化を進めている。株主還元は目的ではなく、あくまで株主価値向上の手段だ。IR開始とともにCG改革をスタートし、先述のように持ち合い株式を撤廃した。「株主と同じ船に乗る」がポリシーだ。IRでは投資家から評価される仕組みを構築しており、持続的な高評価を得ている。

株主は心強い相談相手だ。IRは、経営を任された者の感覚でオーナーの聞きたいことを話せば、必ず話は噛み合うと考える。本来、株主に説明すべきなのは(1)ROICの実績と計画(事業資金を何に投じた)(2)資本調達の最適化実績と計画(ROEの実績と将来計画、資本調達方針=還元方針)である。一定期間での利益とCF拡大(PLとCF)は今後を予想する重要情報と認識される。

多くのケースで、決算説明資料がP/L 90%、還元とB/S 10%という配分と認識している。これでは業務執行の視点が強すぎ、株主の関心に沿っていない可能性がある。当社では決算資料の19ページのうち、6ページを財務に使っている。それが株主の聞きたいことと考えるからだ。

■課題解決講演(2)

事例から学ぶ、経営企画部門のシフトチェンジとリスキリング
~ 事業成長の要として求められるFP&A ~

株式会社アバント
東日本営業部 プリセールスグループ
鈴木 健一氏

総合ファームでのシステム監査のキャリアスタートを踏まえ、一般事業会社での連結経営管理・制度連結システムの導入、運用に10年にわたり従事。アバントに参画後は、プロダクト企画(プロダクト責任者)および導入コンサルタントを経由しマルチ製品を商材として扱うプリセールスグループに所属。日系製造メーカ(組立系、プロセス系)および多角化コングロマリット企業のグループ事業管理のPJTを歴任。管理と制度を繋ぐAVANTプロダクトおよびEPMプロダクトに知見を有する。

当社は1200社を超えるリーディングカンパニーの経営情報システム、特に「グループ経営管理」「連結会計」「事業管理」の3領域で最適なソリューションを提供する。経営のDXを通じて顧客の企業価値向上に貢献すべく取り組んでいる。

◎経営層・事業部のベストパートナーになるための経営企画部門とは?

伝統的な経営企画部門には、中期経営計画の指針策定/期首年度予算、見込み予算の取りまとめ/関連KPIのターゲット設定/M&A戦略方針立案、などが求められてきた。予算管理に関するもの(≒バックオフィス的な役割)が主となっており、ビジネスパートナーとしての活動は低調だ。

しかし昨今は、多くの要素を意識した経営企画部門の組織としての役割期待が高まっている。特に、データドリブン要素に関わるいくつかのキーワードが上がっている。
キーワード例=即時性/複数軸との対比が可能/様々な組織階層での分析が可能/ROICとPL・BS・CFの関連性/課題となる項目が視覚的に分かりやすい/課題の要因の深掘/為替影響等の環境変化による予測・シナリオ分析が容易にできること/コーポレートと事業部とが共通言語で話せるKPI設定、など。

今の経営企画部門に求められる要素は、下記スライドを参照。

本当に必要な情報が経営層に届けられているか?損益管理、予実管理の分析から行動変容を促せているか?事業部門の係数管理と見込みの情報の伝達や整理をする組織になっていないか?という課題がある。今の経営企画部門には、コーポレートコントロールとしての一層のFP&A(ファイナンシャル・プランニング・アンド・アナリシス)領域の要素が求められている。

当社の課題解決アプローチは以下。
(A)ヒトの要素:リスキリング=FP&A人材としての組織作り、ノウハウ転写されたアプリケーションを扱う人間の育成
(B)モノの要素:情報システム基盤(ファイナンシャルデータレイク)=データドリブンを可能とする、経営に必要な分析基盤としてのプラットフォーム
(C)データの要素:分析手法の再定義と管理会計方針のアップデートおよび再定義=経営に必要な、管理会計ポリシーの見直しと要素軸としてのデータ構造定義

実践事例=当社顧客の活動支援事例を紹介する。
まず取組(1):管理会計ポリシーの再定義 シフトチェンジのポイントは「正しい業績管理の型になっているか?型があるのか?」⇒経営管理としての管理用勘定科目の定義や事業の定義/配賦基準定義の在り方。そして「人事評価と適合した管理会計や経営支援定義ができているのか?」⇒成果に見合った報酬体系への反映、事業を強固にするためのKPIの定義。

取組(2):管理会計ツールの在り方見直し シフトチェンジのポイントは「提携帳票の再整備、アドホック分析との違いを理解し、分析手法を確立できているか?」「事業部門、経営との対話や意志決定に足り得る、情報分析基盤があるか?」。そして、取組(3):プロ人材としてのスキルアップデート 経営企画部門としての分析・提案スキルへのリスキリングを通じたFP&A要素を強化した経営企画部門へ。

こうした事例から見えてくる、経営企画部門の在り方をまとめる。
・経営企画部門が要求される要素として「予実管理(計数管理)」から「FP&A」の要素の色が濃いトレンドがある
・FP&A要素の実現に向けた、検討ポイントとしての“ヒト”の要素としてのリスキリングおよりそれを支える情報システムの分析手法確立が業務の重要なキーとなる

・実践事例においてはそのステップを細分化し、「管理会計ポリシーの再構築」「管理会計ツールの見直し」「プロ人材としてのアップデート」へのアクション事例を紹介した。

経営企画部門の責務の一層の高まりと、人的要素としての高度化、経営管理の高度化の関連がより強くなる時代。当社にビジネスのサポートをさせていただければ幸いだ。

■課題解決講演(3)

理念浸透がもたらす、組織と従業員エンゲージメント最大化

株式会社ヤプリ
事業推進部 EXプロジェクトリーダー
古屋 陽介氏

独立系SIerにてSEとしてキャリアをスタート。2011年に(株)オプトへ入社。ジョイントベンチャーにて広告配信プラットフォーム事業の立ち上げやアライアンス先との協業事業推進などに従事。2020年より(株)ヤプリへ入社。現在は「Yappli」のプロダクトオーナーと「Yappli UNITE」のプロジェクトリーダーを務める。

当社は「デジタルを簡単に、社会を便利に mobile tech for all」というミッションを掲げ、ノーコードのアプリ開発プラットフォームyappliを展開している。自社アプリで企業のさまざまなビジネス課題を解決し、モバイルDXを加速させる。あらゆる業界のリーディングカンパニーがYappliを活用しており、約900の導入実績がある。

Yappliで作られたアプリは2024年までに累計2億ダウンロードを突破した。これは、Yappli UNITEによって従業員アプリにも広がったことが大きい。アプリは顧客エンゲージメント向上のために店舗・ECで活用されてきたが、昨今は従業員エンゲージメント向上のために社員向けに活用されることも多い。
※組織と社員との関係を示す指標。組織と社員が相互に信頼できる関係性を構築する

Yappli UNITEは従業員エンゲージメント向上のためのサービスであり、HR Tech市場の組織エンゲージメント領域をカバーする。ミッション、ビジョン、バリューを掲げる経営者の想いは、従業員に届いているだろうか?働き方の多様化が進む中で、情報浸透・共感の獲得に苦戦している会社は少なくない。

経営者側は、経営方針・理念が浸透しない/社内ポータルがあるのに見てもらえない/人材育成して従業員を定着させたい/一体感と協業を醸成する組織にしたい。一方、従業員側は、会社の方向性がわからない/色々な情報があって探せない、見づらい/学ぶ環境がない、成長実感がない/誰が何をやっているかわからない、という課題を持っている。

そんな中、従業員エンゲージメントが重要視されているのは、圧倒的な人材不足/働き方の多様化/人的資本経営の実践、という背景による。従業員エンゲージメントが高まっていると、自己効力感を感じる/前向きに仕事に取り組める/仕事の意義を感じる/新しいことにチャレンジできる/成長を感じる/この組織で何かできると思う、といったマインドが醸成される。

従業員エンゲージメントの高低は、離職率や生産性の高低に大きく影響する。従業員エンゲージメント強化のために重要な4つの視点は以下。
・インターナルコミュニケーションの促進
・リスキリング=成長機会の提供で人材育成
・チームビルディング=働く仲間と繋がる、楽しむ
・ウエルビーイング=従業員の健康と安全をサポート

Yappli UNITEでさまざまな角度からのいろいろなメッセージに頻繁に触れることによって、価値観を自然に浸透させることができる。
※ANAグループ、オルビス(動画あり)、安藤・間、TBSテレビ、三菱UFJ信託銀行(動画あり)の導入事例紹介あり

閲覧状況などアプリ内での行動を把握したり、サーベイ・分析で組織の状態を把握することも可能だ。従業員が能動的に情報を取得する仕組みを作り、アクション計測の両軸で従業員の日々の行動を計測するというPDCAを回していく。それが従業員エンゲージメントの向上につながる。

■特別講演(2)

変革の先にある未来を示す存在
~ 課題解決戦略の起案と実行から見えてくる“経営企画部門”の真価 ~

株式会社カインズ
執行役員 CSO 兼 経営企画本部長
山田 英輔氏

1996年に日立製作所に入社。半導体事業における営業企画、経営企画、業務改革プロジェクトに従事。2004年、米国サンダーバード国際経営大学院にてMBA取得。07年からの10年間は、スターバックスコーヒー ジャパンで、経営企画部長、業態開発部長、経営企画本部長として、ストラテジー、ファイナンス、新業態開発、新規事業開発を主導。18年よりカインズに入社。同社第3創業期の新企業理念、ブランドコンセプト、新中計、M&A戦略等を策定・推進中。

日常の困りごとを解決して、“世界を、日常から変える。”ことが当社の仕事。私は入社以降、2019年から時々の経営環境に応じて、中期経営計画策定や企業理念・ブランドコンセプト、M&Aなどの取り組みを実行してきた。デジタル戦略では、大型投資を含むデジタル戦略中計を策定、新部門立ち上げを含めた5つの組織フレームを構築し、“リアル×デジタルを融合したお客様体験”を、裏方として推進した。

DIY文化の共創に向けて、ハンズとパートナーシップを組み、長期視点の「目指す姿」を定めるために新たなブランドコンセプト「くらしDIY」を策定した。また、未出店地域のお客様にオリジナル商品を届けるため、ホールセール型の事業も立ち上げた。

経営企画部門の方々は既に多くの経営セオリーを勉強されているのではないか。一方、セオリーを自社に適用しようとすると、ハードルが高いという悩みをよく聞く。セオリーと現実の間の埋めがたいギャップをどのように乗り越えるか、について考えてみたい。

◎経営企画部門の役割/スコープ

ルーティン業務だけでも多くの取り組むべきことがあり、現業だけで人員体制としても精一杯……が現状だろう。事業計画策定・予算編成の本来の目的は、事業を成長軌道に乗せることだし、予実/KPI管理・分析は事業のリスク・機会に手を打つため。全社会議体の運営は組織のベクトルを合わせるためだ。

そもそも経営企画の「本来の役割とは?」を考え、業務ではなく本来の目的に基づいて役割を再定義したい。その上で、貴重な時間・リソースを浪費しないよう断捨離・効率化・業務の委譲により重要度の高い業務にシフトすべきだ。

重要度の高い業務は、他部門やCXO/役員の仕事のようにも感じる。しかし、どの部門も従来業務が忙しくて、手がつかない現実。「他部門とのあるべき役割分担は?」という問いでスタックしてしまいがちだが、それは生産性が低い。視点を切り替えて、バリューチェーンの構成員として「マージン創出に向けて、私たちが担うべき支援活動は?」を考えたい

本来の目的から、重要度の高い課題を整理・分類すると、企業の変革・成長エンジンとして、また、バリューチェーンの構成員として“経営企画業”が“事業拡大”を検討するべき5つの成長の選択肢が見えてくる。それは、ストラテジー/事業開発・支援/組織改革/業務プロセス/管理機能強化、である。

◎経営企画部門の成長戦略/変革の実践

複数の成長領域の中で何から手をつけるべきか。一般論は助けにならないし、他者の決定を待つべきでもない。同じ業種でも企業が多様な個性を持つように、私たちの“経営企画業”もそれぞれの戦略があるべき。経営環境を読み、経営者の意図を汲み、最大の価値創出をできる選択をすべきだ。

経営陣や主要リーダーへのインタビューや戦略的な分析を通じて、最も価値創出につながる重要度の高い取り組みを洗い出し、自分/自部門の強み/弱みと掛け合わせて考える。通常の企業戦略と変わらない。

経営課題は時々の環境によって変化する。高優先度のテーマを一つでも解決できれば企業の価値向上に貢献できる。優先度、集中するテーマを決めて戦略を定める。機能×事業関与の深さで、どこまで自部門で体制構築するのが“価値・勝ち”への近道か?を考える。

全てを自部門・自社内でやるのが最善・最速なわけではないことに留意し、経営企画の新しいスコープ/体制を決めていく。優先テーマで勝ちを創出しながら、組織をビルドアップしていく。全社視点で他部門の強み/弱みを見極め、戦略実現体制を組み立てる

変革の実践は簡単ではない。だからこそ「なぜ簡単じゃないのか?」をしっかり考え、対策することが大事。構想・企画フェーズと実行フェーズそれぞれで違う困難さがあるが、いずれも他者の思考や行動を変えることの難しさの問題だ。まず構想・企画フェーズでは“方針”なるものが事前にあると思わないこと。しっかり時間を費やし、ステップを踏み、経営陣の中に存在する認知レベルのギャップを解消することで方針を確立していく。その中でこそ、3C・SWOT分析や、バリュエーション等のセオリーが生きる。

実行フェーズでは、“笛を吹けど踊らず“という状況を自部門の権限の弱さや、他部門の自律性の問題”にしないことが大事だ。プロジェクトマネジメントのセオリーに基づき丁寧に実行計画や必要な体制を整えないままプロジェクトをスタートしていることが組織の動かなさの原因となっているケースは、とても多い。ロジック一辺倒ではなく、心理面に配慮するチェンジマネジメントやファシリテーションのセオリーをも活かす。『理屈で現実は動かない』と言われるが、『現実を動かすためにこそ理屈を活かす』である。

それぞれの領域のスキルも重要だが、それ以前に自分自身の認知の壁を取り払うスキルが鍵だ。変革リーダーの5つのマインドセット“企業ピラミッドの住人”にならない/自分自身の認知バイアスに自覚的になる/他者との認知ギャップを楽しむ/仲間(=カンパニー)を信頼する/勝ち(=価値)にこだわる、である。

セオリーを武器化するとビジネスの現実は楽しい。一人ひとりがビジネス主体だ。「自分のビジョン・戦略」なくして会社の未来は示せない!

2025年3月7日(金) 会場対面・オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催
※講演者様の肩書・役職は講演当時

source : 文藝春秋 メディア事業局