サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します。
今回の数字:PCRで増幅されるDNAの量=1,073,741,824倍
最近のコロナ騒動で、PCRという言葉を連日耳にするようになった。手元にあるDNAの量を大幅に増やす技術だ。
ウイルスというのは、要するに殻の中に入った遺伝子(DNAまたはRNA)だ。ある人の喉から採取した遺伝子を解析し、新型コロナウイルスに特有の配列があれば、その人は感染者と判定できる。問題は、採取できるウイルスの遺伝子は極めて僅かであり、そのままでは解析が難しいことだ。そこでPCR法の出番となる。
DNAは、4種のパーツ(A・T・G・Cと略される)が長く連結したものだ。このうちAとT、GとCは互いに引きつけ合い、2本の鎖をはしご状に結びつけて、2重らせん構造を形作る。これを加熱すると2重らせんがほどけて2本の鎖に分かれるので、そこにポリメラーゼという酵素と、原料となる4種のパーツを加える。すると、1本ずつになった鎖の配列を鋳型にして対になる鎖が合成され、結果として元と同じ配列の2重らせんが2本に増えるのだ。さらに同じ操作を施せばDNAのコピーは4本、8本と倍々に増えてゆき、30回も繰り返せば理論上10億倍以上にも増幅できる。実際にはもう少し面倒だが、基本原理はこのようにシンプルなものだ。
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source : 文藝春秋 2020年5月号