サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します。
世界一黒い物質の光の吸収率=99.995%
カーボンナノチューブ(CNT)という物質がある。炭素原子が細いチューブ状に長く連結したもので、極めて強靱な繊維となる他、チューブの巻き方によって優れた導電体にも、半導体にもなりうる。このため発見者の飯島澄男博士は、長らくノーベル賞の有力候補に挙げられているほどだ。
だがCNTは、性質の揃ったものを大量に作ることが難しく、思うように応用展開が進んでこなかった。鳴り物入りで登場した大型新人が、大成せぬまま表舞台を去るケースは少なくない。CNTもまたその道を歩むのか――と思われた矢先、思わぬ方面への応用が見つけ出された。CNTが、「世界一黒い物質」になるというものだ。
2014年英国で、CNTを物質の表面に垂直に成長させると、異様な黒色になることが偶然発見され、「ベンタブラック」と命名された。この物質に当たった光は、チューブ内で屈折を繰り返して外部へ出られなくなり、熱エネルギーなどに変換されて消える。このためベンタブラックは、当たった光の99.965パーセントを吸収してしまう。通常の黒色塗料はせいぜい95パーセント程度だから、まさに恐るべき黒さだ。
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source : 文藝春秋 2020年8月号