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コロナ後の日本経済におけるSDGs貢献の意義と重要性——木造建築としての不動産戦略を考える【SDGsカンファレンス開催レポート】

3月22日、いま話題の「SDGs」をテーマとした文藝春秋WEBセミナーが開催された。第1部は、慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 教授・岸博幸氏の基調講演、第2部は、三井ホーム株式会社 施設事業本部 コンサルティング第一営業部 営業グループ長・島崎康弘氏と同営業グループ長代理・井上泰成氏による事例紹介。同社の木造建築でのSDGsの取り組みと、木造建築の優位性について具体例を交えて解説した。社会貢献としてのSDGsとはなにか、理解を深める有意義なひと時となった。

世界におけるSDGsの概念とは

 初めに登壇した岸博幸さんによる基調講演では、SDGsという考え方の成り立ちと、今後、企業や個人としてどう対応していけばいいのかについて、日頃考えていることを解説した。「SDGsはいまブームで何かと言われることが多いですが、自分が見る限り人によって言うことが千差万別。そして、評論家も含め国民一般の方と、いわゆるSDGsの専門家の方々の考えが乖離していると思います」と、率直な現状分析をして、SDGsの基本的な17の目標と2030年までに達成するゴールを説明した。

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 そもそも、SDGsという考え方が登場した背景には、近代2つの大戦を経て帝国主義(植民地主義)の見直しをしなければならなくなったヨーロッパによる、国際的な新たな枠組み作りがあるという。特にヨーロッパは90年代に入ってから、現在のSDGsにつながる取り組みを実践しており、地方都市の活性化に成功した事例を「サスティナブル・シティ」と呼んでいる。この「サスティナブル・シティ」とは、他にはない自分たち独自の環境や文化を強化して、人が来たい(観光)、住みたい(産業・雇用誘致)と思う街をつくるということで、スペイン・ビルバオやフランス・ストラスブールなどの地方都市が成功例と言える。

「これらヨーロッパが90年代から行ってきたことを地球規模に拡大しようしたのがSDGs。中には、国連の裏に隠れる『ヨーロッパ陰謀説』を唱える識者の方もいらっしゃいますが、それは間違っていると思います」と興味深い視点を披露した。

SDGsとESG投資

 一方、日本政府は、総理を本部長とするSDGs推進本部をつくって目標達成に向けてアクションプランを策定。各省庁もSDGsに関係するものの予算を計上している。しかしながら、掲げた17の目標が2030年に達成されなくてもペナルティがあるわけではない。にもかかわらず、ここまで動きが盛んになるのは、もう一つの「ESG投資」という考えがあるからだという。「ESG投資」とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(統治)の観点から投資先を見分ける考え方で、これらがうまくいっていないと思われる企業や国・自治体には投資しないという流れになっている。これからは、SDGsとESG投資がセットで考えられる時代になると見られている。

SDGsが生み出すイノベーション

 そこで、岸さんは、この潮流にあって日本経済は絶好のチャンスが来た、と訴える。

「理由はコロナの影響です。コロナ禍によって、仕事、教育、暮らしなど様々な面でデジタル化がすさまじく加速し、今後デジタル後進国だったツケを一気に払うくらい進んでいくと予想しています。現在の日本は世界から『課題先進国』と見られていて、少子高齢化の進み具合やデフレの定着など、世界で初めての厳しい変化に見舞われています。しかし、コロナ禍で深刻な状況に陥り生きるか死ぬかという経験をした人々の価値観が多様化することで、課題解決のニーズ(必要性)が高まり、その結果、イノベーションを創出するチャンスが来ているのです」と力説する。いまは、SNSや3Dプリンター、クラウドファンディングなど手軽に使えるものがあり、大きな組織でなくても個人のクリエイティビティでイノベーションを起こすことが可能な時代。

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「そう考えると、アフターコロナは課題先進国の日本でいろんな社会的課題解決のニーズが顕在化し、それに対応するイノベーションを生み出す絶好のチャンス。企業もSDGsを利用して社会的課題解決を自分のビジネスにしてしまうチャンスがあると思っています。たとえば、企業版ふるさと納税など。本来、イノベーションを作り出して問題を解決することはSDGsへの貢献に他ならないのです。なので、アフターコロナは日本経済にとって、間違いなく楽しい時代がやってくると信じています」と、未来への大きな期待を語った。

三井ホームのSDGs貢献

 第2部では、三井ホーム株式会社 施設事業本部 コンサルティング第一営業部 営業グループ長・島崎康弘氏と同営業グループ長代理・井上泰成氏による、三井ホームが考えるSDGsとその実例紹介を行った。

 先に登場した島崎氏は、「三井ホームが考える木造建築によるSDGs貢献」として、3つの持続を掲げた。

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 ① 地球環境の持続
CO2削減による地球の持続をめざすもの。木造は、成長過程でCO2を吸収し、コンクリートや鉄筋に比べ建築時のCO2排出量が少なく(住宅で比較すると約半分)、木の炭素の貯蔵庫としての効果も期待できる利点を上げた。

 ② 生産の持続
木材資源の再生、循環による生産の持続をめざすもの。鉄鉱石と炭素資源(石油・石炭など)から製造される鉄は、いずれ枯渇することが予想されるが、木材は、生産・加工→解体→自然に返るというサイクルで生産持続につなげることができる。

 ③ 健康の持続
木がもたらす快適性による健康の持続をめざすもの。適度な弾力性によって住む人の足腰への負担を軽減し、転倒した際には骨折になりにくい。また、断熱性が高いので、室内温度が快適に保たれ、冷暖房効率も高く省エネ効果が期待できる。

 2010年に施行された「公共建築物における木材利用の促進に関する法律」によって、今後、低層の公共建築物(学校、保育所、病院、老人ホームなど)に木造建築のニーズが高まると予想。木造の家を建てることが、社会的課題の解決とSDGsへの貢献につながることがよく分かる解説となった。

「ホーム(住宅)」に収まらない取り組み

 次に、井上氏が、三井ホームが手掛けた木造建築の土地活用に関する実例を紹介。延床面積約3000坪で国内最大級の特別養護老人ホームをはじめ、900坪の平屋のスーパーマーケット、倉庫、幼稚園、金融機関、店舗、そして「グッドデザイン賞2020」を受賞した同社の熊本支店の他にアメリカとカナダの事例など、たくさんの土地活用として建てられた木造建築を紹介した。

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 また、今後の取り組みとして今年11月竣工予定の「三井ホーム 稲城プロジェクト」~木造マンション計画を紹介。日本では木造の大規模建築は珍しく、5階建て、延床面積1130坪、51戸というこの計画は画期的と言える。高強度大力壁や構成の遮音システム「Mute」など、三井ホームの技術の粋が結集されている。現在、7月に現場見学会を予定しており、5月中旬頃に詳細が発表されるという。

「三井ホーム」という社名に収まらない同社が手掛ける幅広い木造建築で、SDGs貢献を考えつつ不動産戦略を考えてみてはいかがだろうか。

2020年3月22日、文藝春秋にて開催(撮影・深野未希)

source : 文藝春秋 メディア事業局