ソニーグループの創業者の盛田昭夫(1921〜1999)と、テニスが縁で親交を深めたのが、ソニー元社員で日本テニス協会実業団委員会の委員長も務めた矢澤猛氏だ。
トランジスタラジオなど革新的な商品を世に送り出すソニーの社長と、入社したばかりの平社員。縁遠い存在である盛田昭夫さんと私を結び付けてくれたのはテニスでした。
日本でテニスブームだった時代、中学から大学卒業まで競技を経験していた私は、昭和48(1973)年にソニーに入るとテニス部に入部しました。当時は会社に正式なテニスコートがなく、部のマネージャーだった2年目に、仲間と「作ってくれるよう社長に頼んでみよう」と秘書室に相談すると、あっさり社長に伝えてくれた。この時に盛田さんがテニスに興味を抱いたらしく、「誰が言っていたの?」と聞かれた秘書が私の名前を出したといいます。
そこで盛田さんからテニスに誘われ、ホテルニューオータニの屋上のコートで一緒にプレーをすることになった。50歳を過ぎた初心者、しかも社長ですから、手加減をしながらボールを打っていると「手を抜くな!」と怒られた。そして、「コートに入ったら、俺を社長と思うな」と釘を刺されました。以来、漫画『釣りバカ日誌』のハマちゃんとスーさんのような、不思議な関係が生まれ、お会いするたびに、盛田さんが様々な場所で話されているようなことを直接お聞きできました。
私が昭和57年にソニー・アメリカに赴任してからも、テニス交流は続きました。盛田さんが言うには「ひと汗かけるから、時差ボケ解消にいいんだ」と、飛行場からマンハッタンのテニスコートに来て1時間ほどプレーし、「今日はもう寝るから」と帰っていく。休日にご一緒した際には、「昼飯を食べよう」となり、炎天下で私と一緒に飲茶のお店に並んでくれたこともありました。
誰に対しても偉ぶることなく接する。そんな盛田さんから言われるからこそ響く言葉がありました。
「ドキドキ、ワクワクした人生じゃないと面白くないだろ。子供の頃、運動会の前日ってそういう気分だったじゃないか。60になっても70になっても、誰かに命令されてやるんじゃなくて、自分がやりたいことをやろうよ。俺もそうするから」
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