井深大との二人三脚で、ソニーをグローバル企業に育てた盛田昭夫(1921〜1999)。実弟でソニー副社長などを務めた盛田正明氏が“世界のモリタ”を語る。
長兄の昭夫とは6歳離れていたので、私が中学生の頃、兄はもう大阪帝大で物理を学んでいました。
私は中学4年で海軍の飛行予科練習生に志願し、特攻隊練習生になりました。長兄昭夫は24歳で海軍技術中尉に、次兄和昭は早稲田大学から学徒動員で海軍航空隊に入り艦上爆撃機の操縦士に。終戦までお互いに音信不通でしたが、終戦を迎えて私が最初に実家に戻ると、次兄、長兄がひょっこり帰ってきました。3人の兄弟が海軍に行き(しかも2人は飛行機乗り)、3人とも生きて帰って来られたのは当時の状況から言って幸運以上の何かがあったとしか考えられません。
長兄は東京工業大学の講師になり、私も東工大に入学しました。私たちは同じ親戚の家に下宿していました。兄が戦時中に出会った井深さんと再会し、一緒に東京通信工業(現ソニー)を設立するのはその頃です。私も日本橋白木屋の3階にあった事務所兼工場へ何度か遊びに行き、大学卒業後に入社しました。
技術者の私は、会社では兄より井深さんとよく話しました。研究開発は井深さん、製造、販売、財務その他は兄と役割分担がはっきりしていたからです。
井深さんは発想がクリエイティブなので話が非常に面白い。将来の技術について予想外のことをぽっぽっとおっしゃる。私はものの考え方を井深さんから教わったと思います。
井深さんと兄はお互いにないものを補完しあう関係でした。ただ「他人がやらないことをやる」「失敗は資産と考える」などは共通していた。現在も受け継がれる“ソニースピリット”です。ソニーは早くから海外展開を進め、1960年にソニー・アメリカを設立しました。兄は商社に頼ることなく、ニューヨークに家族と移り住み、自ら奔走してトランジスタラジオなどで「SONY」を広めていきました。
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source : 文藝春秋 2023年1月号