「遠山の金さん」や「文五捕物絵図」など、1400本以上の時代劇で主演を務めてきた、歌手で俳優の杉良太郎(79)が初めて語った知られざる交友録。聞き手/構成・音部美穂(ライター)
安倍晋三さんが亡くなった――。去年の7月8日、このニュースを聞いた時は、目の前が真っ白になった。僕は200人以上の政治家とお付き合いがあるけど、「最も感謝している人」といえば、安倍さんを置いて他にいない。なのに、あの時、なんで僕は安倍さんの気持ちを踏みにじるようなことをしたのか。申し訳ない、申し訳ない……安倍さんのことを考えると、こんな言葉ばかりが頭に浮かんでね。今でも会いたくてたまらないよ。
2024年、芸能活動60周年を迎える歌手で俳優の杉良太郎(79)。20歳で歌手デビューを果たし、テレビでは『文五捕物絵図』『遠山の金さん』等、1400本以上の時代劇で主演を務めた。また1969年からは舞台にも活躍の場を広げ、そのチケットは入手困難なことで知られる。
一方、杉と言えば、刑務所慰問や被災地支援など、時には私財を投じての福祉活動で有名だ。長年にわたる慈善活動は高く評価され、08年には芸能人初の緑綬褒章を受章。現在は法務省特別矯正監(永久委嘱)、厚生労働省健康行政特別参与、警察庁特別防犯対策監(永久委嘱)を務める。
芸能界のみならず政財官界にも幅広い人脈を持つ杉。本連載はその知られざる人間関係と、各界の重鎮から愛されてきた人付き合いの流儀を、杉自身が初めて明かす貴重な交友録だ。
初回は政界編。杉が懇意にしてきた今は亡き政治家の中には福田赳夫、竹下登、橋本龍太郎、小渕恵三など歴代総理の名前も並ぶが、中でも忘れられないのが、昨年亡くなった安倍晋三だという。
僕は「日ベトナム特別大使」を務めていた関係で、2013年から「日・ASEAN特別大使」の職を委嘱されていた。その年の大きな仕事として、文化交流を目的とした「日・ASEAN音楽祭」を開催した。けど事前の段階で、ある大手広告代理店は「10億円かかる」と試算した。でも、そんな予算はない。仕方ないから僕らは必死に協賛を募り、出演歌手の後援会にチケットを買ってもらったりして、なんとか1億2000万円程度で収めたんだ。
国が推進する文化交流だから、補助金として計6000万円を役所に申請したんだけれど、その手続きがもううんざりするほど煩雑でね。うちの会社の社員が徹夜で書類を作って、ようやく手続きを終えても、待てど暮らせど補助金は支給されない。結局、特別監査を経て補助金が振り込まれるまでに3年かかった。その間6000万円はどうしたのかって言えば、僕の会社が自腹で立て替えていた。国がいかに文化交流を軽視しているか、よく分かる話だよ。
その後もあれやこれや問題が続いて、「もうやってられない」って気持ちになった。もう特別大使はやめようと腹を決めたんだ。
そんな折、当時総理大臣だった安倍さんが我が家を訪ねてくれた。もともと僕と安倍家は、お父さんの晋太郎さんの代からの付き合いでね。たまに自宅で食事をする仲だった。その日も、僕が作るお好み焼きを一緒に食べた。
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