各界の識者に呼びかけ、1000年先まで残る100曲を選びたい。そしてこれを「昭和万謡集」と名付けたい──
最近、新聞を眺めていると、昭和歌謡の大きなカラー広告をよく目にします。大々的に一面を使って「懐かしきあの頃の名曲を!」「黄金時代のヒットソングが甦る」といった見出しで、石原裕次郎や美空ひばりなど往年の歌手たちのCDボックスを販売している。これほど頻繁に広告を打つからには、音楽業界も相当、需要があるのではないでしょうか。
では、なぜ、令和の時代にここまで昭和歌謡が関心を集めるのか。私なりに考えてみると、イヤホンを耳につけ、じっくり昭和歌謡を聴く習慣が、かなり広く浸透しているからだと思いますね。コロナ禍で、大勢の観客が集まるコンサートが悉く中止になったことも、ひとりで音楽に浸る習慣に拍車をかけたはずです。
例えば、夜中にこっそりひとりで、ちあきなおみの「喝采」(1972年 作詞:吉田旺 作曲:中村泰士)や「黄昏のビギン」(1991年 作詞:永六輔 作曲:中村八大)の世界に没入することができる。誰の邪魔も入りませんし、孫から「おばあちゃん、なんでこんな歌聴いてるの?」と冷やかされることもありません(笑)。また今はスマホで何でも聴けますから、若者も周囲を気にせず、先入観なく昭和歌謡に出会っているはずです。
耳を澄ませて一対一で歌手と向き合うと、メロディーやリズムの良さだけでなく、歌い手の表情やこぶしの回し方など、それぞれのパフォーマンスまでもが目に浮かぶように伝わってくる。
また、これまで聞き流していた歌詞の重みにも気づくはずです。当時の作詞家は、身を削るようにして歌詞を書いていました。大御所の星野哲郎さんが作詞した美空ひばりの「みだれ髪」(1987年 作曲:船村徹)という歌がありますが、「春は二重に巻いた帯 三重に巻いても余る秋」という歌詞があります。一見、今の若い人には分かりにくい詞ですが、相手のことを想うあまり、春から秋にかけて帯を三重に巻いても余るほどに痩せてしまったという意味で、じっくり聴けば、しみじみ、その味わい深さを感じられるでしょう。
つまり、今、昭和歌謡の聴き方が、大きく変質しているのです。そして、深く聴き込まれることで、昭和歌謡が本来持っていた歌の力が世代を超えて再発見され、再評価されている。古びたかに見えた「昭和歌謡」という音楽のジャンルが、今、一つのブームを形成していることが、非常に興味深く感じられるのです。
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source : 文藝春秋 2023年11月号