「おいちょっと待てよ。レコード大賞はどこに行っちゃったんだ」
表彰状を受け取る小林旭の隣で、阿久悠が露骨に顔をしかめていた。賞レースの意外な結末に小林も苦笑いを浮かべるしかなかったという。
「もしあのときの授賞式が生放送ではなく収録だったら、俺はストップをかけていたかもしれない。『おいちょっと待てよ。レコード大賞はどこに行っちゃったんだ』ってね。
若い頃は腹を立ててテーブルをひっくり返したり、コップを握りつぶしたこともあったけど、さすがにあの時は自制心が働いたよ。公の場で何かしようものなら恥をかくのはこっちの方だからね」
昭和61年の大晦日に放送された「第28回日本レコード大賞」(TBS系)。通算124枚目のシングル「熱き心に」が大賞候補にノミネートされた小林は、作詞を手がけた阿久と共に授賞式が行われた日本武道館のステージに立った。
その年の金賞、すなわち大賞候補作に選ばれた作品は、石川さゆりの「天城越え」やテレサ・テンの「時の流れに身をまかせ」、渡辺美里の「My Revolution」など、いまも歌い継がれる名曲ばかりだ。並みいるライバルを押し除けて最終審査に残ったのが小林の「熱き心に」と、前年「ミ・アモーレ」で大賞を受賞し、2連覇を狙う中森明菜の「DESIRE―情熱―」だった。
大賞が発表される直前まで、小林には自分が選ばれるという確信があった。舞台裏で事前に審査員の西村晃から受賞を伝えられていたからだ。
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source : 文藝春秋 2023年11月号