統一教会と創価学会

総力特集 権力と宗教

宮崎 哲弥 評論家
島田 裕巳 作家・宗教学者
小川 寛大 宗教専門誌『宗教問題』編集長
ニュース 社会 政治
政教分離から暗黒史、安倍国葬まで語り尽くす
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(左から)宮崎氏、島田氏、仲正氏、小川氏

多くの宗教が政治と関わってきた

 宮崎 安倍晋三元首相暗殺事件を機に、政治と旧統一教会(世界平和統一家庭連合。以下、統一教会)の関係が改めて注目されています。そこで今日は近代日本における政治と宗教の関係について議論したいと思います。

 議論を始める前に前提として私自身の基本的なスタンスを明らかにしておきます。それは「政治と宗教は原理的に分離されるべきだ」というもの。宗教がカヴァーする領域というのは、政治の扱う領域よりも深く、広いのです。宗教はそれを信じる者のアイデンティティの根幹を規定し、世界観総体を形成する。従って宗教には妥協とか譲歩というのはあり得ません。原理的には。

 ただ共存はできる(笑)。近代社会においては政治権力が共存を強制しているからです。宗教勢力が宗派間闘争をはじめたり異端審問を行ったりすることは、世俗(政治権力)優位のこの社会では、許されないことです。

 政教分離原則というのは、この政治権力の作用がすべての宗教に対し平等であるように、特定の宗教宗派の立場に偏らないようにするために設けられたものなのです。

 まあこれが原理的なスタンスですが、リアルポリティックスはずっと複雑怪奇であり、「政」と「教」の関係も一筋縄ではいきません。統一教会や創価学会に限らず、多くの宗教が政治と関わってきた。問題はその関わり方だと思います。今日はその論点を追及したいと思います。

 さて、まずは安倍元首相暗殺事件について一言。

 小川 山上徹也容疑者の「特定の宗教団体に恨みを持っていた」との供述の第1報に触れ、おそらく統一教会だろうと予想がつきました。なぜなら日本の数ある宗教のなかでも、統一教会の高額献金や霊感商法の悪質さは群を抜いているからです。もはや宗教ではなく、宗教の皮をかぶった集金マシーンと言ったほうがよい。今回のような事件が起きうる土壌は以前からありました。

 一方、安倍元首相は祖父の岸信介から3代にわたって、統一教会と親しい間柄にありました。被害者団体や弁護士が「付き合いを考え直してくれ」と申し入れても耳を貸さなかった。もちろん、だからといって殺人が正当化されるわけではなく、事件そのものは本当に痛ましい悲劇です。ただ正直、脇が甘かったのは否めません。

 島田 容疑者の母親が「多額の献金をしていた」としか報じられていなかった段階では、私は他の新宗教も頭に浮かびました。奈良という土地からまず連想したのは、地元の天理教です。作家の芹沢光治良は自伝的小説『人間の運命』の中で、親が熱心な天理教の信者であり、全財産をなげうって布教にのめり込んだために塗炭の苦しみを味わったことを描いています。また、容疑者が元自衛官という情報から、かつて自衛隊内に信者組織を持っていた顕正会の可能性も考えました。顕正会は日蓮正宗系の新宗教ですが、日蓮正宗の国教化を目指すなど、過激な活動で知られています。

 仲正 私は大学に入学した1981年から約11年半、統一教会の信者でした。元信者としての感覚からすると、なぜ安倍元首相が標的になったのか、いまひとつ腑に落ちないんですよ。怨念の対象は政治家ではなく統一教会の人間に向かうのが筋だろう、と。テレビのインタビューで「安倍元首相は身内のようなものだった」と言う2世信者の方もいますが、これはメディアに誘導された発言のように感じられます。統一教会の教義に照らせば、安倍元首相も「堕落した人間」のひとりに過ぎず、決して教会の身内とは言えません。

 このように考えると、まだ解明されていない謎は多くあると思っています。

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統一教会の合同結婚式

①「なぜ政治と宗教は癒着するのか?」政教分離の大原則に挑戦してきた新宗教の野望

 宮崎 自民党を中心に、国会議員と統一教会の関係が次々と明らかになっています。岸信夫・前防衛大臣や二之湯智・前国家公安委員長が内閣改造で外された後も、例えば山際大志郎・経済再生担当大臣や萩生田光一・政調会長の、教団との「濃厚な」つきあいが指摘されている。統一教会問題の処理の不首尾は、政権を揺るがす大問題に発展しています。

 一方、創価学会・公明党はこの事態を前に、首をすくめて嵐が通り過ぎるのを待っているような状態です。

 なぜ政治と宗教は癒着するのか? 統一教会は何故政治に接近したのですか?

 仲正 政治家たちが最も期待しているのは、やはり選挙の際の支援だと思います。統一教会は創価学会などと比べると規模は小さいですが、信者たちはみな従順でよく働きます。派遣される信者たちは、選挙応援ぐらい軽くこなしますよ。普段から従事している布教活動や徹夜祈祷、「万物復帰」と呼ばれる物品販売の方が、よっぽどきつい(笑)。私も信者時代、万物復帰がうまくいかずに「売れるまで帰ってくるな!」とよく叱られていました。信者たちにとっては選挙支援なんて、むしろ休みをもらったぐらいの感覚なんです。

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萩生田光一氏

 宮崎 現在の日本国内の統一教会の信者数は?

 島田 公称では56万人とされていますが……仲正さんの実感としてはどうですか?

 仲正 実態よりはかなり多い印象です。私が信者だった1980年代でさえ、アクティブなメンバーは2万人もいないだろうと言われていました。その後、霊感商法が問題化した後、信者数は相当減ったはずです。

 統一教会の中では、信仰歴が長く、ホームと呼ばれる拠点に専従する信者のことを献身者と呼んでいました。献身者は、イベントや選挙に呼ばれたら必ず参加します。また、それに準ずる信者を合わせて、2万人ほどだと。それ以外にも、自分の仕事を持ちながら礼拝などに定期的に通う一般信者がいます。そうした信者を合わせても、せいぜい6万~10万人の間が妥当なところでしょう。

 宮崎 公称とは相当な開きがありますね。ただ、政治家を取材してみると、数としてはそれほどではなくても、宗教団体からの票の支援は非常に固く確実であるため、「とても安心感がある」と口を揃えていいますね。

 小川 宗教票に限らず、組織票というものは、全体の投票率がどれだけ下がっても必ず投票してくれる有難い存在ですからね。

自民党が創価学会に逆らえない理由

 島田 集票マシーンとして最も強力な力を誇るのは、やはり創価学会でしょう。公称827万世帯が会員ということになっており、新宗教としては日本最大の勢力を誇ります。ただ、のちほど詳しく述べますが、これはかなり誇張された数字です。

 小川 教勢としては、池田大作名誉会長が前面に出ていた頃に比べると落ちていることは明らかですね。ただ、自民党にとって創価学会の力は依然として大きい。

 先日、自民党のベテラン議員が興味深いことを教えてくれました。その議員の選挙区では有権者の5%程度の創価学会員がいるそうです。5%というと少なく見えるかもしれませんが、投票率が5割程度の中、彼らは必ず投票に行くので、実際の選挙では学会票の比重は2倍の10%になる。さらに、野党が統一候補を立てて一対一の与野党対決型になる最近の小選挙区では、ほとんどの学会員は自民党に投票します。その結果、蓋を開けると自民党候補者の得票数の2割前後を学会票が占めることになる。「これで創価学会にケンカを売れると思うか?」と、そのベテラン議員は言っていました。

 宮崎 教勢は落ちていても、小選挙区制と低投票率によって、政治的影響力がかえって高まった可能性がある。そういう構造は公明党もかなりはっきりと意識していて、今回の参院選では、例えば京都の選挙区では公明支持層の一部の票が自民の候補者ではなく、日本維新の会の候補者に流れました。こういう選挙区が他にも幾つかあった。この背景には個々の選挙区の事情もあって、一概にはなかなかいいにくいのですが、自民圧勝が予測されるなかで、与党内で公明党が存在感をアピールしたともいえるわけです。

 小川 昔は労働組合や農協、郵便局なども手堅く票が見込めましたが、そうした団体はどんどん瓦解していった。創価学会はそれらに比べて縮小のスピードが緩やかでした。その結果、他団体よりも相対的に政治的影響力を強めた面はあると思います。

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創価学会の祝祭

北朝鮮には統一教会、中国には創価学会

 宮崎 統一教会はかつての「勝共」「反北(朝鮮)」という政治姿勢ばかりが強調されていて、冷戦構造崩壊後、この教団が大きく変質したという点は軽視されがちです。かつての看板だった「反共」を降ろしまではせずとも控え目にし、代わりに「統一」や「平和」の看板を強く押し出すようになった。

 はっきりいえば、この30年間、統一教会は北朝鮮の政権と極めて友好的な関係を保ってきた。単にトップが懇意だというだけでなく、「平和(ピョンファ)自動車」など合弁事業を行ったり、国際社会の場で北朝鮮を支援してきた。

 教団の持つ、こうした北朝鮮とのあいだのパイプは、拉致問題の解決を掲げる日本にとって魅力だったと思います。とくに2014年のストックホルム合意を北朝鮮が事実上破棄してしまった後は、拉致問題はまったくスタックしてしまった。何とかこのルートに突破口を見出そうとしたのではないか。そういう観点から取材してみると、幾つかのこれに関連する動きがみえてきます。

 もちろん一般の議員と教団との関わりは、あくまで組織票や選挙ボランティアが目当てだったのでしょうが、政権のトップに関わる人々と教団の関係にはそれとは違った要素、思惑もあったのではないか、と思われます。

 仲正 今年2月、ソウルで開かれた統一教会のイベント「ワールドサミット2022」に、安倍元首相は手紙でメッセージを送っています。韓国の実行委員長がそれを代理で読み上げたのですが、そこでも「拉致問題の解決と核問題の解決がなければ南北問題は前進しない」と強調していました。北朝鮮とのパイプがあることを承知の上で、こうしたメッセージを送ったのでしょう。

 島田 実際、宗教団体が外交に関与した前例があります。1972年の日中国交回復の際は、創価学会が大きな役割を果たしました。1968年に池田大作が「日中国交正常化提言」を出し、中央執行委員長(当時)の竹入義勝が頻繁に中国側と接触し、日中国交正常化への下準備を積み重ねた。そうした成功体験も、自民党の記憶に残っていたはずです。

自民党右派に迎合した統一教会

 宮崎 しかし宗教団体の側は、一体どのような思惑をもって政治に接近するのか。

 小川 安倍元首相暗殺事件の後、一部のマスコミは「自民党右派の政治的主張は、統一教会の主張と同じ内容が非常に多い。これは政治が宗教にコントロールされている証拠である」として批判しています。しかし、この点について私は必ずしも同意しません。むしろ統一教会側が、自民党右派の歓心を買うために調子を合わせていた面が大きいのではないか。

 仲正 同感ですね。私は大学卒業後、統一教会系の新聞『世界日報』の記者を2年ほど務めていたのですが、どんな記事を読んでも、統一教会や関連政治団体である国際勝共連合に独自の保守思想を感じたことは1度もありません。また、自民党右派に迎合してか、本来の教義に反するような主張が紙面に並ぶことさえある。たとえば最近では「夫婦別姓反対」がそうです。

 宮崎 建前をいうと、家族の一体感が極めて重要だから「別姓」には反対という理屈ではないの(笑)。

 仲正 いえ、そもそも教祖の文鮮明と夫人の韓鶴子が別姓です。

 宮崎 儒教社会の家族秩序からすればそれが当然ですね。そもそも「同姓不婚」が原則ですからね。

 仲正 統一教会の基本的発想では、あらゆる点において韓国は日本より上なので、本来なら夫婦別姓に賛成のはずです。それにもかかわらずなぜ反対かというと、自民党右派に調子を合わせているからではないか。

 小川 それに似た現象は他にも見られます。たとえば安倍元首相が統一教会系雑誌の表紙に何度か載ったことが云々されますが、あれは写真を通信社から買っただけで、中を見ても本人は別に登場しないんです。いわば、芸能雑誌がアイドルの写真を載せているようなもの。

 島田 そう。安倍元首相が保守派のスターだからと、一種の広告塔に政治家を利用したのですね。

 小川 そもそも宗教団体は、宗教を否定する共産主義とは相容れません。なかでも文鮮明は強烈な反共主義者でしたから、その点で日本の反共保守と相性が良かったのはたしかです。かつて冷戦時代には、政治団体でも民族団体でもない「反共団体」というものが存在しました。これは反共産主義を理念とする勢力で、国際勝共連合もそのひとつ。岸信介をはじめ、当時の保守政治家はそうした団体の活動方針に共感していた。逆に言えば、当時はそれだけ共産主義にも勢いがあったわけです。

 仲正 統一教会は「勝共理論」と呼ばれる反共の理論を体系化し、教義と結びつけています。教義上、共産主義は神と対立するサタンの究極思想だと位置づけられている。「反共」ではなく「勝共」という言葉を使うのも、共産主義者にみずからの誤りを認めさせて勝利するんだという意味が込められているのです。

 実際、勝共思想に共鳴して勝共連合の会員になる政治家や評論家は少なからずいました。とはいえ、そうした会員が統一教会のほうの信者になるケースは稀でしたね。そのように考えると、統一教会が自民党右派にすり寄っていたのは、一種の「保険」としてシンパを増やしたかったからではないかと考えられます。

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岸信介氏

政教一致のために政界進出した創価学会

 宮崎 では創価学会はどうですか。公明党が自民党と連立を組んで20年以上経ち、すっかり政権与党という地位が定着してしまったようですが。

 島田 現実に政治への影響力を保持し続けているという点では、創価学会は統一教会をはるかにしのぎます。公明党は福祉分野などで創価学会が望む政策を自民党に受け入れさせてきました。つまり創価学会は公明党を通じて、私たちの国民生活にまで大きな影響を及ぼしているのです。

 宮崎 この政治への強い拘りは、どこから来るのか。

 小川 創価学会は戦後日本の新宗教の中でも政治への志向性が非常に強い団体です。逆に言えば、その教義からして、どうしても政治に進出する必要があった。

 そもそも創価学会は、一閻浮提広宣流布(いちえんぶだいこうせんるふ)(日蓮の教えをこの世界すべてに教え広めること)と国立戒壇(こくりつかいだん)の建立(国に宗教施設を作らせること)を目標に据えていました。とりわけ国立戒壇については、政界に進出して政治権力を握らないと達成のしようがない。だから政治への志向性が強いわけです。

 島田 1964年に公明党が誕生した際、その綱領には「王仏冥合(おうぶつみょうごう)と地球民族主義による世界の恒久平和」「仏法民主主義による大衆政党の建設」といった宗教的なスローガンが生々しく打ち出されていました。ちなみに王仏冥合とは、政治と宗教の一体化を目指すという意味で、宗教政党としての性格が露わになっています。

 宮崎 例えば「国立戒壇」建立という夢はもうどうでもよくなったのですか。

 島田 後で詳しく述べますが、のちに創価学会は言論出版妨害事件を起こして世間の強い非難を浴び、「王仏冥合」「仏法民主主義」といった宗教的な用語は綱領から姿を消しました。また、公明党としても国立戒壇を目的に活動することはできなくなりました。

 宮崎 ただ、創価学会が依然として強い組織力を持っていることを考えると、何かのきっかけで、こうした体質が復活しないか、注視しておく必要がありますね。

 小川 それはそうかもしれません。しかし、創価学会が衰退期に入っているのは間違いない。自公連立によって公明党が公約を実現させてきたことは、彼らにとって延命装置として機能した側面がありました。その実績を学会内部に向けて「功徳の結果」と喧伝することができたからです。

 ところが最近、公明党が与党化したことがマイナスの側面を持つようになってきた。自民党の改憲構想や消費増税案を受け入れるなど、むしろ自民党側に引きずられています。また、世代交代も進んでいます。あと10年もすれば、公明党の集票力も維持できなくなるでしょう。

自民党右派と決別した「生長の家」

 宮崎 先の参院選では、公明党は目標の800万票に届きませんでした。また比例区で公明党が議席を1つ減らしたのは象徴的でしたね。これまで目標議席を確保していた公明党としては、極めて異例のことでした。

 小川 選挙における創価学会の圧倒的強さにも、そろそろ陰りが見えてきたということです。

 宮崎 統一教会と創価学会以外の宗教と政治の関係を見ておきましょう。「反共」を通じて保守政治に近接した新宗教といえば、生長の家を措くことはできません。数年前にベストセラーとなった『日本会議の研究』(菅野完著)でも、生長の家が取り上げられました。日本会議は安倍政権と密接な関係にあり、憲法改正を強く訴えている運動団体ですが、同書では日本会議のルーツが生長の家にあると指摘されていました。

 島田 そうですね。生長の家の創立者・谷口雅春は、第二次世界大戦中に強い天皇信仰を打ち出しました。「すべて宗教は天皇より発する」として、あらゆる宗教の根源に天皇を位置づけたのです。戦後、谷口は公職追放を受けますが、東西冷戦がはじまると風向きは変わります。日本でも保守と革新の対立が激化し、生長の家の国家主義が保守勢力から支持を受けるようになりました。

 小川 生長の家は「生長の家政治連合(生政連)」という政治団体を持っていました。これは100万近くの票を叩き出せると言われた巨大組織で、「参院のドン」と呼ばれた自民党の大物政治家、村上正邦を支援し当選させたことでも知られています。ところが生政連は80年代に活動を停止してしまったんです。

 島田 優生保護法改正をめぐって、自民党と決別したんですよね。生長の家は中絶に反対していたから。

 小川 はい。日本会議ブームでは憲法改正だけが注目されましたが、じつは生長の家の主張のもうひとつの柱は「優生保護法改正(中絶の禁止)」でした。でも、自民党は優生保護法改正を進めなかった。ある元信者から聞いたのですが、谷口雅春は、生長の家の政治活動を振り返って「われわれは自民党に利用されただけだった」と総括していたそうです。さらにその元信者は「自民党は日本医師会と生長の家を天秤にかけて、向こうをかわいがっていた。議員たちは、赤じゅうたんを踏むと人が変わってしまい、言うことを聞かなくなる。だから、政治活動に意味があるとは到底思えなくなってきた」とも言っていました。

「創価学会へのカウンター」として政界進出

 宮崎 2016年には、生長の家が安倍政権への反対を表明したことも記憶に新しいですね。原発再稼働や安全保障法案に対して、はっきりノーを突き付けた。与党や候補者を支援しない姿勢も明らかにしました。

 仲正 おそらくいまの統一教会の幹部たちも、本音では政治家が思い通りに動いてくれるとは思っていないでしょう。「自分たちは妙な教義を持っている団体だと思われているから、自民党に協力しておかないといつ潰されるか分からない」という不安の方が、自民党にすり寄る動機としては大きいのだと思います。

 島田 教団規模が国内で、創価学会、天理教に次ぐ3番目の立正佼成会も、かつては生長の家と並び、自民党支持勢力のひとつでした。創価学会の東日本における最大のライバルでもあり、嫁姑の問題で悩むような低所得の都市民を信者として獲得し、急拡大を果たしました。パーフェクトリバティー(PL)教団や崇教真光といった50以上の新宗教が加盟する新日本宗教団体連合会(新宗連)の中心的な団体でもあります。

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 宮崎 近年、立正佼成会は生長の家と同様、自民党から距離を置くようになっています。自民党支持から野党支持に転換したともききます。

 島田 公明党が自民党と対抗関係にあった時代には、立正佼成会は自民党の候補者を応援していました。創価学会に強い対抗意識を持っていたからです。そのため1999年に自公連立が成立すると、民主党支持にシフトしました。しかし自民党との関係を完全に絶ったわけではなく、いまでも一部の自民党候補を推薦しています。

 小川 立正佼成会の政界進出には、1950~60年代の創価学会の拡大に対する危機感のもと、ほかの反創価学会系の新宗教と集結したという経緯がありました。これが新宗連です。

 こうした流れをみると、戦後日本の宗教と政治の関係は、まず創価学会という特殊な団体が政界に進出し、その他の教団もカウンターとして政界に出ていくという構図があったことがわかります。新宗連は自身の政治目標があるわけではなく、アンチ創価学会でしかないんです。新興宗教の教祖はアクの強い一国一城の主が多く、他の宗教との連合組織など、基本的には無理ですから。

 島田 立正佼成会も信者を減らしていますね。30年前には公称で600万人以上いたと言われる信者数も、いまでは200万人台と半分以下になっています。

アテにならない公称信者数

 小川 先の参院選では、立正佼成会の比例推薦候補が、現行の選挙制度になって初めて全敗しました。

 先の創価学会の例といい、統一教会といい、今回の参院選は、日本の宗教と政治の関係性における大きな曲がり角になったと言えるかもしれません。

 宮崎 このように見てくると、宗教団体の政治活動は全般的に弱体化している印象を受けます。実際、新宗教の教勢、つまり信者数も減少しているのでしょうか。

 島田 じつは、宗教法人の信者数についての正確な調査は存在しないんです。毎年、宗教法人を管轄する文化庁宗務課が刊行している『宗教年鑑』には、各法人が申告した信者数が掲載されています。ただ、それはあくまで公称であり、実態を反映した数ではありません。ある雑誌が宗教特集を掲載した際にまとめた公称データを見ても、国内信者数の最も多い新宗教は創価学会で、827万世帯。次に幸福の科学が1100万人、3番目に立正佼成会が約270万人で続き、さきほど名前が挙がった生長の家は49万人です。

 宮崎 全部足すと、日本の全人口を超える(笑)。

 島田 その通り。新宗教の信者数については、なかなか信頼に値する数字が出てこない。

 小川 公称の数字はまったく当てになりません。まず、宗教団体が公称する数字には脱会者がカウントされていないんです。たとえば、創価学会が信者の家に配る掛け軸のような「御本尊」があるのですが、これを渡された時点で信者にカウントされてしまう。当然、脱会して捨てた人もいるでしょうし、昔は無理やり押し付けられて仕方なくもらったケースもあったようですが、そういう数字は除外されない。その結果、800万世帯という膨大な数字になっているわけです。

 島田 その「御本尊」、うちにもありますよ(笑)。

 小川 幸福の科学は、教団の経典の発行部数から信者数を割り出していると言われている。生長の家でも同じような構図があります。私が取材した信者3世によれば、本人はまったく信仰していないのに、地方に住む祖母が生長の家の熱心な信者で、親戚一同を信者として本部に報告していたという。会費も月に数百円ぐらいなので、祖母1人で負担しても大した金額にはならない。つまり、本部が信者数を盛っているとは限らなくて、本部ですら正確な信者数を把握できていないわけです。このように、新宗教の規模に関してはほとんどの場合、実態以上に膨れ上がった数字が出てきます。

 島田 さきほどのデータとは別に、大阪商業大学が22年にわたって続けている調査結果も用意してきました。対象者は4万2373人で、統計学的に正確とは言い難いものの、第三者による調査という意味では貴重なデータです。これによると、創価学会の信者数が約217万人、2番目に多いのは天理教で約38万人、次が立正佼成会の約20万人。公称では1000万を超えていた幸福の科学はたった3万8000人と、いずれの団体も公称の信者数と比べてあまりにも落差が大きい。小川さんが指摘されたように、自分で信仰の自覚がある信者は相当に少ないことが分かります。

 宮崎 幸福の科学にしても、仮に1000万人を超える信者数があれば、幸福実現党から少なくとも1人や2人の国会議員は送り出せているはずですね。

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大川隆法氏

元気なのは「政治と距離を置いた教団」

 小川 今回のような大事件が起きると、世間には「宗教は怖い」とか「宗教がウラで日本を支配している」といった陰謀論が必ずといっていいほど出てきます。

 しかし、冷静にその実態を分析する必要がある。宗教が、何らかのメリットを求めて政治に近づいたことは事実です。ただ、これまで宗教が政治を意のままに動かしたことがあったかというと、かなり怪しい。

 仲正 たしかに、国際勝共連合の政治運動によって何か具体的な成果があったかと言われれば、ほとんど目につくものはありません。

 小川 メリットは教団の箔付けぐらいのものでしょう。私は政治を志向する宗教団体がまったくの人畜無害だと言う気はありませんし、民主主義社会の中できちんと監視すべきと思います。しかし、新宗教の「怖さ」が異様にクローズアップされる傾向には、注意しなければならないと思っています。

 宮崎 私は、いま統一教会問題が炙り出した構造そのものは今後も残っていくと思います。国政選挙で1万でも2万でも、候補者にとって固いベースとなる組織票はありがたいものなのです。まして地方議員にとっては垂涎の的でしょう。

 島田 一方で、そうした票集めの草刈り場として利用されることを嫌がる宗教団体は出てきています。生長の家もそうですし、真如苑もそうです。

 小川 面白い現象があるんです。真如苑はほとんど政治活動を行っていない一方、日本の新宗教のなかで唯一、教団規模が拡大傾向にあるのです。いまどき、宗教団体が政治に参画してもカネと手間がかかるだけで、何の得もない……真如苑の存在は、そうした事実を示唆している気がします。

 島田 それは興味深いですね。「政治と宗教の蜜月」ではなく「新宗教の政治離れ」が今後のテーマになる気がしますね。

②「知られざる暗黒史」強引な折伏と信者獲得、資金集めはいかに宗教の姿を歪めたか?

 宮崎 まずは統一教会の歴史を概観してみましょう。統一教会は1954年、文鮮明という人物によって韓国で創立されました。この団体の特徴は、一般的な新宗教と異なり、極めてビジネス色、政治色が濃いという点ですが、どういう成り立ちでそうなったのでしょうか?

 小川 統一教会は日本上陸前の初期段階から政治的なバックアップを受けて活動していた団体です。文鮮明の基本的な思想は「自分は再び世界に降臨したキリストである」というもの。これはクリスチャンの多い韓国でも「なんだそれ?」と受け止められて、世間になかなか浸透しなかったのです。

 仲正 「再臨のメシアである文鮮明夫妻が、新しいアダムとエバとして地上に天国を築く、真の父母様である」という考え方ですね。信者たちは、まず研修会でこの思想を叩きこまれます。

 小川 そうした思想はなかなか浸透しない。そこで、文鮮明はKCIA(韓国中央情報部)や朴正熙大統領といった有力者に取り入り、社会に根を張っていった形跡があります。日本で政治との結びつきを重視するのも、初期の体質を引きずっているからではないかと。

 島田 統一教会の政治への志向性は、宮崎さんのいうビジネス的な特徴とも繋がっていますよね。統一教会発案の代表的な事業は「日韓トンネル」。日本の佐賀県唐津市と韓国の釜山を結ぶ構想です。実現性は度外視して、とにかく大きい事業をぶちあげる。すると、利権を求める政治家がそこに群がってくるわけです。

 小川 統一教会は他の新宗教と比べて、宗教と直接関係のない企業体の数が非常に多いのも特徴です。食品会社や自動車会社も持っている。おそらく、文鮮明夫妻や家族の思いつきで作られただけだと思うのですが。

 仲正 そのビジネスをまた政治につなげていく。平和自動車に投資しているのは、北朝鮮とのパイプができるからでしょう。結果的には、それが自民党との関係構築で有利になった。また、統一教会がアメリカの共和党に浸透しているのは、現地に『ワシントン・タイムズ』という保守系メディアを持っていることが大きいと思います。同紙はアメリカの保守系メディアのなかでも存在感があり、取材能力にも長けた記者が多い。でも、ほとんどの記者が信者である『世界日報』と違い、ワシントン・タイムズの信者の数は1割にも満たないはずです。そういう記者たちは、おそらく国務省や国防総省のスタッフなどとコネクションを持っています。先に紹介した「ワールドサミット2022」では、トランプ前大統領の神学顧問を務めるホワイト=ケインという女性の牧師が出席しています。トランプからビデオレターをもらうことができたのも、彼女のルートでしょう。統一教会はVIPを取り込む技術には非常に長けています。ある有名人が来たら、次は「こんな人も来たんですよ」と言って別の有名人を誘う材料にする。こんな手法を、もう30年も40年も続けてきているんです。

 島田 そういうイベントを開催することが自己目的化しているんですね。

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下村博文氏

韓国への贖罪意識を徹底利用する

 仲正 統一教会が他の保守系宗教と決定的に違うのは、「日本は韓国に対する植民地支配で大変な負債を負っている」と強調する点です。教義上は、韓国が神側のアダム国家、日本はかつてサタン側のエバ国家で、戦後、神側のエバ国家になった。韓国と血縁的に近い日本は、本来は韓国を補助するべき立場だったのに、逆に植民地化して破壊しかけた。その贖罪をしなければならない。日本の統一教会でも、「日帝」など、左翼しか使わない表現を普通に用いていましたね。

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source : 文藝春秋 2022年10月号

genre : ニュース 社会 政治