「2人でボトルを空けた後、夜通し京都までぶっ飛ばしたよ」
「その日は日活の撮影所にいて、ちょうどスタジオに向かおうとしていたところだった。俳優部の部員さんに『石原裕次郎さんが着きました』と耳打ちされて、世紀の二枚目と言われる男がどんなものか見てやろうと思ってね。
離れたところから眺めていると、車のドアが開いて、まず出てきたのは脚だ。ゴム草履を履いた素足がスッと伸びて、下には海水パンツを穿いていた。髪は坊ちゃん刈りでアロハシャツの裾を前で結んでたな。当時は『湘南の貴公子』なんて呼ばれていたらしいけど、太陽族そのままのスタイルだった。『いらっしゃいませ』って所長やみんなから出迎えられていたよ。これが噂の裕次郎かって。まあ、大したもんだった」
小林旭(84)は石原裕次郎を初めて見た日の光景をコマ送りの映像のように記憶している。
昭和30年代の日活映画黄金期に“マイトガイ”の異名を取り、後に“タフガイ”裕次郎と人気を二分する小林だが、当時はまだ駆け出しの大部屋俳優。デビュー前からスターの座を約束されていた裕次郎とは歴然とした差があった。
「裕次郎は石原慎太郎さんの推薦を受けて、当時、日活のプロデューサーだった水の江滝子さんが連れてきたんだ。俺と違って入社試験は受けていないし、大部屋の下積みも経験していない。
ライバルのように比較されることもあったけど、俺の意識ではそうじゃない。旭と裕次郎ではなく、どこまで行っても裕次郎と旭だ。
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source : 文藝春秋 2023年6月号