
渡哲也
渡哲也は水色の背広を着ていた。
本来なら水色のスーツと書くべきだが、当時は上下のセットアップでも背広と呼んでいたので、それに従う。足もとは白い靴。『東京流れ者』(1966)を思い出すと、真っ先に蘇る姿だ。
序盤は水色の背広で、中盤がライトグレー、そしてラストは白いスーツに着替える。細身のタイは、最初が水色、次が明るい茶色で、最後が白。靴はずっと白。より正確に記すとこうなるが、記憶のなかの彼は、いつも水色の背広に身を包み、とっぽい照れ笑いを浮かべている。
渡の演じる不死鳥の哲にはぴったりの衣裳だが、鈴木清順映画ならではの色彩設計だった。60年代後半、私は清順映画に眼ざめ、不思議な快感を覚えていた。高橋英樹主演の『刺青一代』(1965)や、小林旭主演の『関東無宿』(1963)と出会ったのも同じ時期だ。
なかでも、渡哲也は初々しかった。いま見直すと、幼いと感じるほど若いが、当時でも少年ぽく見えた。口もとをちょっと尖らせた表情など、ボーイッシュと呼びたくなるほどで、思わず微笑を誘われる。2年後にはじまる〈無頼〉シリーズでは、すでに十分成熟した男伊達の雰囲気を漂わせるようになるのだが。
不死鳥の哲は、倉田組の親分に可愛がられ、自身も忠誠を誓っている。やがてよくある陰謀が絡み、哲は流浪の旅に出る。庄内や佐世保で敵の追っ手と戦う哲は、味方にも手ひどく裏切られる。蒸気機関車が背後から迫る雪の鉄路での銃撃戦をはじめ印象的なシーンは多いが、アブストラクトな映像の最終決戦のあとには、苦い味わいも画面に滲む。
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source : 文藝春秋 2021年2月号