6月9日(水)に、文藝春秋EC&デジタルカンファレンス~「デジタル販路」開拓のススメ~がオンライン開催された。
今、顧客とメーカー/ブランドが直接つながり、ブランドストーリーの訴求から購買体験、購買後のサポートまでをデジタルで完結する「EC/D2C」に注目が集まっている。
このイベントでは、従来とは違う販路を開拓することによる売り上げの拡大、ロイヤルカスタマーの醸成による利益率の改善などを実現する“買い物DX”の可能性に関して実践者、プロフェッショナルの講演を通して考察・検証が試みられた。
デジタル販路の将来性・ポテンシャルや、EC/D2Cがもたらすビジネスモデル転換、成長戦略についての最新情報を確認し、視聴者とともに考える貴重な機会となったのではないだろうか。
※EC=Electronic Commerce/D2C=Direct to Consumer/DX=Digital Transformation
◆基調講演
「D2C・Eコマースでデジタル販路へ舵を切れ!」
~ 日米中の先進事例から見えるD2Cブランドの作り方 ~
株式会社いつも
取締役副社長
望月 智之氏
カンファレンスの幕を切って落とす基調講演を行ったのは、株式会社いつも 取締役副社長の望月智之氏。同社はD2C・EC マーケティング・DX支援で延べ約1万件超の実績を持ち、2020年12月に東証マザーズ上場を果たしている。
今、メーカーは早期のEC販売拡大、販路開拓が急務であると望月氏は語る。年々成長を続けるEC市場を牽引しているのはAmazon、楽天市場、YahooショッピングなどのECプラットフォームで、2019年は約10兆円のEC物販市場の66.7%をECプラットフォームが占めるまでになった(出典:富士経済「通販・e-コマースビジネスの実態と今後2020」より)。
メーカーの自社ECサイトは現状、卸・小売り業者が介在することが大半で、「ブランド力の低下」「利益率の低下」という課題を抱える。また、社内にECや個人情報管理のノウハウがなく、部門間調整や人材の育成が難しいこともありECへの早期参入や強化が行いにくい、という現実を望月氏は指摘した。
そこで同社は『ハンロー』というメーカー販路DXサービスを開発。メーカーのD2C販路拡大を支援している。重視しているポイントは、①長期的なブランド価値の向上 ②継続的な売り上げアップ ③数字に基づくECマーケティング。
事業計画作りから関わり、コンテンツ作りに協力し、ECプラットフォームのカテゴリー上位となるECサイトを短期間で作る支援を行っている。実際、ある化粧品ブランドの公式ショップは『ハンロー』導入から約1年でカテゴリートップとなった。株式会社いつもは、ECによる売り上げ拡大を目指すメーカーの頼もしいパートナーになりそうだ。
特別講演①
「花王の EC 戦略」
~リテンションビジネスへの挑戦、共創パートナーとの連携によるデジタル販路拡大の挑戦~
花王株式会社
DX戦略推進センター ECビジネス推進部 部長
生井秀一氏
経済産業省の資料によると、2016年に消費財の市場規模は15兆円を超え、2019年には19兆3609億円に。EC化率は2018年に6%台へ突入した。そんな中、花王株式会社は、2021年に「DX戦略推進センター」を設立した。
同センターECビジネス推進部の生井氏は、①マスマーケティング(量販店などの流通向け商品) ②デジタル・ダイレクトマーケティング(EC向け商品) ③SNSを中心としたコミュニティの中で売る商品という3つの販路と、それぞれに相性のいい商品ができていると言う。
ECには即時性、双方向性、検索性という特徴がある。例えば、楽天内の『LUNASOL』(カネボウ・ブランドの化粧品)旗艦店では「総合ランキング1位」を獲得したら即、内製で、公式サイトを通じその旨を告知。起きたことをすぐ行動に移し実行、検証するPDCAサイクルを回している。
ECマーケターの基本は、ブランディングと売り上げ獲得の統合だ。Paid(マス広告媒体) 、Owned (自社保有媒体)、Earned(消費者・ユーザー起点メディア)の3つのメディアと、ショッパーメディア(専業ECプラットフォームの購買者向け販促広告)の融合を前提とした新たなメディアミックス、顧客アプローチが必要と説いた。
EC売り上げの計算式は、顧客人数(年間の購入者数)×客単価(1回当たりの購入単価)×平均購入回数(一人当たりの年間購入回数)=売り上げ。
日本はリアル店舗系、EC系、SNS系そして電子決済系に分かれた特有の市場環境が存在する。綿密なECチャンネル戦略と使い分けが必要と語った。同社はチャネル戦略ごとの数字を組み合わせて目標達成を目指し、同社の各ブランドの特性に応じて、最適なECの活用を検討しリテンションビジネスに挑戦しているという。
デジタルテクノロジーの進化=AI /5G /IoT/音声入力/キャッシュレスにより、「買い場」(販促)と、「知る・出会う場」(広告)の距離が近くなる。オフラインとオンラインの垣根も低くなる。
インターネット上の情報を見たうえで購入・利用する「オムニチャネル・コマース」は2023年、72.2兆円に拡大すると生井氏は予想する。MAツール導入・最適化などでオンオフの垣根のない購買体験実現を目指すべきだという。
今後のECビジネスでは、商品とサービスを組み合わせて、お客さまに価値提案することが重要。IT技術のインストール、アップデートは欠かせない。IT、商品、サービス総合的に知識を入れてビジネスをつくることが大切だと語った。
まとめとしては、
これからのECは社会に新しい価値を与える場になる。
① 購買起点でマーケティングをする。ブランドマーケティングとショッパーマーケティングの融合 ②先を読む。どんどん変わる世の中を先読みしながら動く。 ③生活者と流通とメーカーが一体となって未来をつくる。それに繋がる価値をつくる。
この3点を挙げ、発想も仕事の仕方も変えるべき、2025年までには買い物行動が大きく変わる、と締めくくった。
課題解決講演
「ブランドメーカーのEC参入で失敗しない秘訣」
[最新]大手ブランドのD2C・EC参入モデルとは?
~ ブランドシェア750%UPを実現した事例も紹介 ~
株式会社いつも
アカウントグループ グループマネージャー
石川雅人氏
冒頭、株式会社いつもの石川雅人氏は、自分たちでECをコントロールできる状態になければ“直販参入している”とは言えない、と断言。
自社ECと自社でコントロールできるECプラットフォーム(モール)の併用が理想で、卸依存を脱却して、ブランド力の強化を行うべきと説いた。
① 適切な価格で販売する
②任意のカテゴリーおよびキーワードで露出される
③競合よりも多いレビュー件数および高レートの獲得
④適切な利益(利益率)を獲得できる
そんなメーカー/ブランド公式ECサイトを実現することが大切なのだという。
それを実現するのが同社の『ハンロー』。オンライン特約店で、ECシェアを伸ばす新しい販路DXサービスだ。株式会社いつもが販売リスクを担い、人材やインフラを用意しEC事業のすべてを代行する。もちろん主要ECプラットフォームにも対応する。
他商品と比較されず、商品情報が充実する。自社顧客のみを分析できるので最適なマーケティングができる。市場ボリュームから、精緻に販売戦略を決められる。必要な広告費など多角的に見ていける……といった多くのメリットがあると説明。ハンロー導入で、レビュー数とレビューの平均点数が上がり、単価とシェアも上がり、値引きを防ぎ、発送関連も改善できた例も多数あるのだという。
通常数千万円かかる初期投資が「初期費用+売り上げ歩合」で済み、契約から立ち上げまで約24カ月かかる見積もりだった案件が約6カ月で実現した例、3年で成長率750%を達成した実例もあるとのこと。一度、同社に相談してみてはいかがだろうか。
特別講演②
「アフターコロナのデジタル・マーケティング戦略」
~ 誰に、何を売るのか? 事業を伸ばす顧客理解とは ~
M-Force株式会社
共同創業者
西口一希氏
ECのポテンシャルについて、俯瞰したマクロな視点で語ると西口氏は前置きし、日本のBtoC EC市場規模の推移から紹介。2019年の日本のEC市場規模は19兆3609億円。物販系EC比率は6.76%(経済産業省資料より)。米国は2021年のデータで19.5%がEC。先進国はおしなべて10%超えなので日本はまだまだ伸びしろがあり、今後、倍にはなるだろうと口火を切った。
2019年のEC市場規模は、中国が約209兆円、米国は約63兆4000億円で、日本は約19兆3000億円。この数字からも、「越境EC」を意識しておいたほうがいいとアドバイスした。現在の越境ECは中国3兆6652億円、アメリカ1兆5569億円、日本3175億円(経済産業省資料より)。こちらも潜在需要が見込まれるとのこと。
日本は50~60代の年配者の人口が圧倒的に多く、若年層の人口は増えていない。総人口は1990年からさほど増えていない(約1.2億人台を維持)が、積極的な移民政策によりアメリカは人口が90年の約2.5億人台から約3.3億人台に増えており、若年層も平準的に増えている。これは今後の国力伸長に大いに影響すると西口氏は予測。越境ECを考えるなら米国を意識することを推奨した。
最後に、経営者へのアドバイスとして「顧客心理の変化」をきちんと捉えることを提案。顧客層を認知度・購買経験・頻度により、ロイヤル顧客、一般顧客、離反顧客、認知・未購買顧客の5層に分類する。そして、各層の顧客に対して何を「独自性・便益」として提供するかを考え抜くことが大事であると語った。
顧客戦略(WHO&WHAT)を見極めずに、実現手段手法(HOW)=新規獲得への投資や既存維持への投資、既存顧客育成への投資、プロダクトの開発・改良・強化、それらを実行する組織・人材・教育投資などを行うのは本末転倒であると強調した。HOWばかりを実施しWHO&WHATを意識していない経営者や、どのお客さまに何を伝えなければならないのか、どのような経験をしていただかないといけないのかが明確でないままに事業を営んでいる人が多い、と注意喚起して講演を締めくくった。
2021年6月9日文藝春秋にて開催 撮影/末永 裕樹
注:登壇者の所属はイベント開催日当日のものとなります。
source : 文藝春秋 メディア事業局