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【イベントレポート】新しい「営業戦略」- 戦略の立案・実行、組織づくり・プロセス改革から探る、利益最大化への挑戦 -

 新型コロナによる市場ニーズの変化や急速な円安、そしてそれに伴う仕入れ価格の上昇は、日本経済とビジネス現場に大きな影響を及ぼしている。特に営業活動においては、お客様との接点が「対面」から「非対面」となり、業績の不透明感も増す中「経験と勘」から「プロセス化、見える化」へとDX=デジタルトランスフォーメーションの流れを汲んだ変革へと舵を切る企業も増加傾向にある。

 しかしながら、営業戦略や組織づくりのあるべき姿について、具体的なビジョンやゴールが十分検討されないまま結果としてデジタル化が目的となり、成果が出ないといったケースも多数散見される。

 また、変革を支える人材に目を向けると、営業人材の不足や育成、定着化についても中堅・中小企業のリーダーにとっては大きな悩みとなっている。お客様への価値提案の機会を作り出し発見し、そして適切なタイミングでフォローしてお客様の成功を中長期で支援し続けるには、営業戦略や組織、プロセスのバランスを人材の特性を理解しつつ構築していくことが重要といえるだろう。

 そこで、本カンファレンスでは「新しい営業戦略」をテーマに、戦略の立案・実行、組織づくり・プロセス改革から探る利益最大化への挑戦に焦点をあて、売上と利益の最大化に全力を注ぐプロフェッショナルおよび実践者の講演を通じて営業戦略のあるべき姿を考察した。

■基調講演

 新時代の「営業戦略」と「営業DX」
~ これから何が「変わるのか」「変わらないのか」 徹底解説します ~

横山さん①
 
横山 信弘氏
(株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ 代表取締役社長)
企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。

 まず初めに横山氏は、キーワードとして「言語力が低い人にとってDXは逆効果」「予材管理」を挙げ、目標を絶対達成させる戦略&DXについて語り始めた。以下は要旨。

 目標のない戦略はとても危ない、怖すぎる。目的=何のために(デジタル技術という銃を)撃つのか? 目標=どこに向かって撃つのか。戦略=①誰に ②何を ③いくらで ④どのように? DX=どんなデジタル技術で、どんな変容を? を明確にしなければならない。

 理想的な営業組織とは、期の途中から今期も目標達成すると組織全員が確信している組織だ。環境が変化しても、安定して目標達成をしている組織の共通点は、主体的に行動し、考えて、結果を出そうとしている/しかるべきタイミングで、しかるべき情報共有をしている/常に「知識習得・スキルアップ」に努めている/仕事にやりがいを覚え、組織に貢献したいと思っている、以上のような特徴を持つ。

 逆に、将来に不安を抱える営業組織は、主体的な姿勢が乏しく、当事者意識・危機感が足りない/情報共有のルールに一貫性がなく、場当たり的である/「知識習得・スキルアップ」が年間20時間を下回っている/デジタル対応に遅れ、営業の生産性も低い、といった共通点を持つ。

 特に、営業戦略が抽象的なのにデジタル化ばかりが進み、ドンドン問題が複雑になる、という状況は避けなければならない。“何をやらないか”を決めるのが戦略であり、使わないセールステック(SFA/CRM※など)を導入するのは完全な戦略ミス。先述の①~④の戦略とマネジメント、セールステックを紐付けるべき。

※Sales Force Automation/Customer Relationship Management

 ただし、理想論で手の込んだ戦略を策定しデジタル化すると、複雑すぎてなかなか覚えられず、慣れないため結局のところ浸透しない。武器を渡せば戦略や方向性が定まるわけではない。戦略、方向性の策定には1年以上の時間がかかるので着手は急ぐべき。問題を放置すると若手、マネジャーとも思考停止し、離職もしくは組織に埋没してしまう。

横山さん②
 

 解決策としては、戦略(方向性)とマネジメントを統一し、DXで繋ぐことだ。①誰に ②何を ③いくらで ④どのように?という戦略を、セールステックなどで繋いで計画(P)、行動(D)、検証(C)、改善(A)を回していくことで初めて目に見える成果が出る。そして忘れてはいけないのが冒頭で挙げた「言語力」。言語力がないとあらゆることがデジタル化しづらい。言語力を鍛えて、戦略を決め、統一し、周知徹底しよう。

横山さん③
 

 とはいえ言語力は一朝一夕には鍛えられないから、戦略やマネジメントがシンプルに統一されパッケージ化された「予材管理」のような既製品ツールを利用するのも手だ。予材管理とは最低でも目標を達成させる営業マネジメント手法。従来からある予実(予算と実績)管理よりより実践的であり、営業担当一人ひとりが既存・新規の商談のポテンシャルがある顧客“予材”をどれだけ開拓・把握し(仕込み)、目標達成の方策を考えているかが分かるツール。未来のために仮説を立てる、という営業のチカラが身につく。

■課題解決講演

 急成長を果たした営業組織の舞台裏!
~ 外資IT営業部門のマネジメント・オペレーションを赤裸々に紹介 ~

堀井さん
 
堀井 成巳氏
(株式会社コンカー バイスプレジデント ディストリビューション統括本部 営業統括)
2012年株式会社コンカー創業と営業開始より、営業部に従事。企業立ち上げに伴いユーザー数が0社の状況から10年で1450事業グループ、時価総額TOP100社の52%シェア、8年連続経費精算システムの売り上げナンバー1への成長に大きく貢献。現在はバイスプレジデントとして営業部門を牽引。

 経費精算・請求書処理・出張管理などの間接費管理クラウドサービスで、国内シェア約6割を握るコンカー。堀井氏は、チームビルディング・組織風土/生産性/営業力強化の3軸別に、営業組織マネジメントの要諦を紹介した。以下は要旨。

 ○チームビルディング・組織風土
皆がやりがいを感じて仕事に向き合っている/皆が高いプロ意識とモラルを持っている/皆がお互いをリスペクトし合い高め合える/皆がリーダーを信頼している/風通し(コミュニケーション)のよい──そんな組織風土の構築を心がけている。例えば、コミュニケーション面では、違和感や課題を放置せず提言・進言を求め、それらに対し定期的にマネジメント会議の議題として検討状況を可視化している。

 ○営業力強化
例えば、営業戦術についてはフレームワーク化(言語化)し、定期的に言い続けている。勝つためのアカウントと案件への向き合い方を統一し、経験や感覚ではなく全員が共通指標で会話やコーチングが可能になる。Forecast(予測、見込み)については、MEDDIC分析※を使っている。当社独自の分析シートやブレストにより案件状況把握の共通言語化をすることでリスク管理とアクション考察が精緻化し、Forecast精度が向上する。

 可視化・分析やスキルアップ・成長のための様々な施策も行っている。毎週各部長からメンバーの参考になる“良Activity”を発信して、生の教材としてメンバーのスキル向上に繋げてもらう通称 「営業筋トレ」もある。

※MEDDIC分析=Metrics(測定指標)、Economic Buyer(決裁権者)、Decision Criteria(意思決定基準)、Decision Process(意思決定プロセス)、Identify Pain(抱えている課題)、Champion(自社サービスや製品の擁護者)の6つの項目から構成されるForecast精度向上、セールス認定方法論。

 ○生産性
 周辺業務や間接業務の徹底的な合理化・デジタル化・フリーロケーション化を実施している。それによって営業マンにとってのコア業務(提案準備、顧客訪問、クロージング)に集中してもらい、余計な不満を排除し、デジタルを当たり前としデジタル社会を牽引するデジタルDNA(習慣・価値観・発想など)を醸成している。キーワードはデジタル・モバイル・ペーパーレス・ハンコレスだ。

堀井さん②
 

 ○評価軸
先述してきた3つの軸を評価で支えることで普遍化し、文化として根付かせる。業績(数字・結果)→コミッション(報酬)で評価し、実力・成長・組織貢献→昇級・昇格で評価、+人間としての成熟度→昇進、で報いる。営業部長、担当営業とも業績のみの評価ではなく、会社や本部として、価値があるチーム・人間なのかを評価している。評価軸を明確にすることでマネジメント方針の軸である「チームビルディング」「組織風土」「営業力強化」の各施策が文化や習慣にまで根付くようにしている。

 営業担当はともすれば生産性の妨げになる経費精算の負荷が大きい。弊社のConcur Expenseを利用してのデジタル経費精算は、PayPayやSuicaなどのICカードとの連携や、現金支払いの領収書をアプリ+OCRで入力することで入力レス・ペーパレスが実現し、生産性向上の一翼を担える。より良い営業組織、より強い営業組織作りの参考にして頂きたい。

■特別講演

 売り上げ最小化、利益最大化の法則
~ 永続的な顧客との関係を築く、新しい営業戦略、販売戦略 ~

木下様①
 
木下 勝寿氏
(株式会社 北の達人コーポレーション 代表取締役社長)
1968年神戸生まれ。大学在学中に学生企業を経験し、卒業後は株式会社リクルートで勤務。その後、独立するも事業に失敗しフリーターに。無一文の中、Eコマースに勝機を見出し、コネもツテも一切無い状況から一人で起業し、独自のWEBマーケティングで東証プライム上場を成し遂げ、一代で時価総額1000億円企業に。広告運用や商品開発、顧客サポート、システム開発に至るまでを内製化するとともに、「5段階利益管理」「無収入寿命」などの独自の管理会計による経営で社員一人当たりの営業利益額2332万円を実現。

 化粧品・健康食品ブランド「北の快適工房」事業をD2C※で展開している北の達人コーポレーション。正社員一人あたり利益が他の東証プライム上場企業の約7.7倍の2332万円(2020年2月期)という、少数精鋭で超効率的に圧倒的成果を出しているベンチャー企業だ。経営方針である「売上最小化、利益最大化の法則」と営業・販売戦略について木下氏が語った。以下は要旨。

※D2C=Direct To Consumer。メーカーが中間流通を介さずに自社のECサイトなどを通じて商品を直接消費者に販売するビジネス

 売上最小化、利益最大化を実現するには、売上ベースではなく利益ベースで考える。同じ利益なら売上は少ない方がいいと考える。創業当初は運転資金が潤沢になかったために、利益ベースのシミュレーションを日々徹底していた。投資⇒売上⇒コスト⇒利益、という流れを計算式を作り一気通貫で考え、無借金で売上100億円、利益29億円を実現した。

 固定費の抑制=売上の抑制であり、売上は闇雲に上げていくとまずい。利益を最大化するには、異なる2つの数値を把握しておくことが絶対条件だ。一つ目は、販促コスト÷獲得人数(件数)で算出するCPO=Cost Per Orderつまり顧客一人もしくは一件の獲得にかかった販促コスト。もうひとつは、LTV=Life Time Value。一人もしくは一件の顧客からある一定期間を通じて得られる売上、である(非リピート商品は客単価)。

 利益=売上(×粗利率)-販促費。販促費を増やせば獲得件数は増え、顧客獲得件数が多ければ売上は増える。しかし、売上の最大化が利益の最大化ではない。売上最大化と利益最大化は違うので、「収穫逓減の法則」に当てはまるCPOを精査しなければならない。一般的に売上が大きいと固定費(人件費など)も多くなる。景気悪化などで売上が減った場合でも固定費はほぼ変わらないため、売上が大きい場合ほどダメージは大きくなる。売上拡大は、利益が大きく下がっても赤字転落しにくい体質を作った上で初めて目指すべきだ。

木下さん②
 

 販促費/広告費についても、広告原稿(案件)個別に上限CPOやLTVを見て、続ける広告、止める広告を取捨選択していかなければならない。この徹底により、“売上は半減しても、利益は1.5倍、利益率3倍”といった実績を出すことが可能になる。当社は常時5000本程度の広告出稿を自社システムにてデイリーでCPO管理し、無駄を徹底的に省いている

木下さん③
 

 売上とコストの連動性は「原価」「販促費」だけでなく「注文連動費」「ABC」「運営費」まで管理する。当社は、利益を商品ごとに5段階で見える化している(5段階利益管理)。注文連動費とは、同封物や付属品、決済手数料、配送費など。ABC(Activity Based Costing)は商品ごとの人件費。運営費は家賃や間接業務人権費などだ。商品ごとの営業利益を、月ごとの利益変動も含め毎月見極めなければならない。以上は通販事業の例だが、飲食店チェーンでは店舗ごとの管理も必要になる。

 売上最大化と利益最大化は違う⇒同じ利益なら売上は少ないほうが安定性は高い⇒利益を増やしながら売上を下げるには徹底的に「利益につながっていない売上」を捨てていく⇒無駄な売上にかけていた資金とマンパワーを「顧客満足(商品力・サービス)」にあてる⇒CPO(顧客獲得コスト)が下がり、LTVが上がり、さらに高利益体質になる

 不況は必ず10~20年サイクルでやってくる。その前提で財務状況を維持する必要がある。売上が0になっても、現状維持=コスト削減なしで全従業員の雇用維持や家賃支払いができる期間である「無収入寿命」を意識する。
無収入寿命=純手元資金(総資産-固定資産-棚卸資産-流動負債)÷月額固定費。純手元資金の目標額が貯まるまでは、大きな投資はせずコツコツ貯める。まずは何があっても社員を守れる財務状況を作りたい。

木下さん⑤
 

 一社一社の企業が利益を出し、納税することで役所や非営利団体、ボランティアを含む世の中が回っている。利益を出せば出すほど世の中全体が豊かになっていく。だから企業は一円でも多く利益を生み、一円でも多く納税をすべき。まずはあなたの会社から始めよう。

2022年7月26日(火) オンラインにて開催・配信

 

source : 文藝春秋 メディア事業局