国宝だけではない。天皇がデザインした名品も
磯田 木の温かみを感じる館内ですね。今回は皇居三の丸尚蔵館の開館記念展「皇室のみやび―受け継ぐ美―」にうかがいました。上皇陛下と香淳皇后により、皇室に代々受け継がれた美術品が国に寄贈されたことを機に建てられた当館には、国宝から皇室ゆかりの品まで、貴重な美術品が収蔵されています。リニューアルされてスペースも広くなり、今から拝見するのが楽しみです。
島谷 4年の建設工事を経て、まだ一部ですがようやくお披露目することができました。今回ご覧いただく第二期(現在は会期終了)では、明治・大正・昭和期の天皇や皇族方が親しまれてきた美術品、宮殿調度、皇室の慶事を祝って献上された作品が展示されています。早速、見ていきましょう。
磯田 展示室に入ってまず目に入ったのが《鵞鳥卵蒔絵盃(がちょうのたまごまきえさかずき)》です。これは非常に面白い一品ですね。
島谷 明治天皇の発案により、ガチョウの卵の殻に蒔絵を施して盃にした作品です。第二期の前半には、柑橘のザボンの皮を乾燥させ、同じように蒔絵をあしらって菓子器にした作品を展示していました。明治天皇はこのように卵や果物の皮を作品へと生まれ変わらせることにご興味があったようです。
磯田 ガチョウの卵を見て、歴代の多くの天皇が鳥類に対して高い関心をお持ちだったことを思い出しました。京都御所には孝明天皇のお好みにより建てられた「聴雪」という部屋がありますが、その外ではたくさんの鳥をお飼いになられていたようです。明治天皇も鳥類にご関心があり、ガチョウの卵を盃にしようと思ったのかもしれません。
明治天皇の発想の豊かさ
島谷 現在も、高円宮妃殿下が鳥の写真を撮られていますよね。このガチョウの盃を明治天皇が実際にお使いになられたかどうかは分かりませんが、「自然」への興味はおありだったのでしょう。
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source : 文藝春秋 2024年5月号