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ハーレムで黒人の人形を売るわたしへの2つの反応

 私は黒人の人形を手作りし、販売している。ハーレムで開催されるポップアップ・ショップにも出店する。人形はラグ・ドールと呼ばれる布製だ。肌の色はチョコレート色とカフェオレ色があり、黒人の女性や女の子のヘアスタイルをリアルに再現している。

 私の人形を見たハーレムの人たちの反応は2つに分かれる。「あぁ! こんなの見たことない!」と感極まる女性たちがいる。バービー人形などは黒人バージョンも作られているが、アメリカで販売されている人形の総量としては、やはり白人の人形が圧倒的に多いからだ。

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「なぜ、あなたは黒人の人形を作っているの?」と聞く人も多い。皆、私に対して無作法にならないよう、「アジア人なのに」を省くが、彼らが不思議に思うのはそこだ。それが分かっているだけに、この質問を受けるたびに丁寧に説明することにしている。

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「私は以前、ハーレムの学童保育で働いていました。そこで黒人の女の子たちが、自分より肌の色が薄い人形を欲しがることに気付きました。だから女の子たちが『わたしにそっくり!』と喜ぶ人形を作り始めたのです」

 アメリカは白人優位の社会ゆえに、黒人も肌の色が薄い方がいいとする風潮が根強くあり、黒人たち、特に女性たちは辛い思いをしている。私の説明に女性だけでなく、人形を欲しがる幼い娘を連れた父親たちも深く頷き、人形を買ってくれる。

他者の文化を取り入れても良いOKラインはどこ?

 アジア系の私がこうした人形を売ることに対し、文化の盗用だと批判を受けたことはない。もしかすると、私が白人ではなく、黒人よりも少数派のアジア系であることが緩和剤になっているのかもしれない。とはいえ、中には文化の盗用と感じる人もいるかもしれない。ボランティアとして作って無料配布しているわけではなく、販売し、ささやかながらも利益を上げていることから搾取と捉える人もいるかもしれない。もし、そう訴える人がいれば、人形を見てもらった上で説明を繰り返すしかない。

 ここで冒頭の疑問に立ち戻る。他者の文化を取り入れても良い「OKライン」はどこなのだろうか?

 答えは「明確な線引きも、マニュアルも存在しない」だ。

 これまで人種民族の多様性を持たなかった日本にとって、文化の盗用の理解は相当に難しい。だが、日本国内の多様化はすでに始まっており、今後も進む。とはいえ、日本における多様性の構成はアメリカのそれとは異なる。日本は日本における文化の盗用を自身で考えていかなければならない。

多様性時代の豊かで新しい文化を創り出す方法

 唯一、答えがあるとすれば、他者の文化への「敬意」を示すことだ。アリアナ・グランデは、日本文化は「喜びをもたらしてくれる」もので、自分には日本文化への「パッション(情熱)」があると語り、日本語のレッスンを受けていた。ブルーノ・マーズは自身の人種と音楽ジャンルの関係について寡黙だが、ブラック・ミュージックへの並並ならぬ敬意があることは、彼の音楽を聴けば十分過ぎるほどに分かる。

 文化の盗用を防ぐには、他者の文化をリスペクトし、真摯に、同時に喜びを持ってクリエイトすること。間違っても手軽なビジネスとして利用しないこと。特に日本における大マジョリティである日本人は、自身だけでは気付きにくいマイノリティの心情を、マイノリティと直接の交流を持って知ること。

 いずれも簡単なことではない。だが、これが文化の盗用を理解し、かつ異なる文化を融合させ、 多様性時代の豊かで新しい文化を創り出す方法なのだ。