世界のスタンダードは「感染の制御」にシフト
――それが世界的なスタンダードなのでしょうか。
清水 そうなんです。猫も杓子もとにかく、ルートプレーニングで歯垢を全部とらないと治らないという考え方はちょっと古い。今はインフェクション・コントロール(感染の制御)という考え方にシフトしてきていて、これは患者さん個々の免疫で抑えられるところまで感染源を少なくするという考え方です。免疫の強さは人それぞれで違います。風邪を引きやすい人、引きにくい人、歯周病になりやすい人、なりにくい人、さまざまです。その人の免疫で抑えられるところまで感染物質の総量を減らすというアプローチなら、歯周病菌の除去の治療も1日で、同じ結果が得られます。知覚過敏の発現率も明確に下がって、メリットが大きいんです。
――なるほど。
「ごめんブラッシング」法で歯垢を除去
清水 もう少し丁寧に説明すると、インフェクション・コントロールは患者さんが行うものと、医療従事者が行うものとがあります。患者さん自身で行うものが、日々の歯垢の除去、つまりブラッシングです。私が提唱する「ごめんブラッシング」法では、歯を5つの面で立体的にとらえます。デンタルフロス、もしくは歯間ブラシを使ってはじめてすべての面でのブラッシングが完結します。磨き残しが少なくとも30%以下、重症歯周病患者さんなら20%以下になるようにしてもらっています。ですから、「ペリオド」を実施する前段階として、正しいブラッシングをマスターしていただく必要があります。患者さん自身でインフェクション・コントロールをできるようになれば、「ペリオド」の治療そのものは多くの場合1日で、重症歯周病患者さんでも1日から3日程度で終わります。
そして患者さんの手が行き届かない20から30%部分の磨き残しを、われわれ医療従事者のインフェクション・コントロールで定期的にフォローします。その両輪の態勢をとることで治療期間を短くできますし、その後も継続的によい口腔状態を保つことができます。
歯周病専門医からのアドバイス
――ストレス社会で働く人たちに、口腔ケアのアドバイスをいただけますか。
清水 歯周病は細菌による感染症ですから、ストレスが過度にかかる状態が継続すると白血球の機能不全を起こすリスクが高まり、口腔内の状態が悪化します。なので、日頃からできるだけストレスをうまく解消して、バランスのよい食事をとることが大切です。口の中は末梢組織ですから、末梢の血液循環をよくするビタミンEや、抗菌力が強いビタミンC、DHAやEPAの含まれた食べ物は、歯ぐきにとって特によいものです。よく噛んで食べることが、栄養になるのはもちろん、脳を活性化し、人の顔を美しくします。
ストレスを抱えていると、どうしてもブラッシングが甘くなりがちですが、健康の要は歯にこそあります。「ごめんブラッシング」は口腔内フローラを良好に保つ、究極のアンチエイジング法でもあります。すべての方に、ご家庭でできる、ご自身の歯と健康を守るための第一歩を踏み出してほしいと心から願っています。
清水智幸(しみず・ともゆき) 1963年東京都生まれ。88年、日本歯科大学卒業。近代歯周病学の生みの親であるスウェーデン・イエテボリ大学のヤン・リンデ名誉教授と日本における歯周病学の第一人者である奥羽大学歯学部歯周病科・岡本浩教授に師事。2000年、清水歯科クリニック開設。09年、東京マキシロフェイシャルクリニック院長に就任。同クリニックは15年に東京国際クリニックと名称変更し、現在にいたる。歯周病治療・歯周外科の症例数は10,000症例以上に及ぶ。近年はインプラント周囲炎治療の講師も務め、後進の育成にも力を入れている。