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佐野洋子さんからの感想の手紙にあった「上品なユーモアが垂れ流し」という言葉。3月には映画本も刊行予定。

――なんでも面白がるのは長嶋さんと登場人物に共通していますね。『佐渡の三人』の文庫解説を書いている時に思ったんですが、あの人たちが納骨の時でも楽しもうとするなんて不謹慎のようでいて、でもすごく切実なものを訴えかけてくるんですよね。品性のある不謹慎ですよね。長嶋さんがコンピュータでイラストを描いた漫画の『フキンシンちゃん』(12年マッグガーデン刊)もそうですが。

長嶋 不謹慎なことを使いたくなる気持ちってあると思うんだよね。『フキンシンちゃん』もそうだけど、不謹慎なことをでまかせに言ってみても、いろいろ書けるなと思っていてさ。それが最近の自分のトレンドなんじゃないかと思う。

――でもそれが下品じゃないじゃないですか。

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長嶋 そう言われたら、そりゃだって自分自身が品がいい人です、って答えになっちゃうじゃん(笑)。

――はい、自分でそうお答えになったと書いておきます(笑)。

長嶋 でも佐野洋子さんがね、『ジャージの二人』を読んだ感想の手紙をくれてさ。「こんなような上品なユーモアが垂れ流し」っていう語彙があって佐野さんすごいって思ったんだよ。自分では意識してなかったので、あっ俺上品なんだ、って思った。自分で「僕は上品でね」なんて言語化する人は上品じゃないから言わなかったけれど、佐野さんにそう言われたんだよ。でも、「垂れ流し」と続くのがね(笑)佐野さんの言語的筋肉のすごさだよなあ。まあ、僕は自分を品がいいとは思っていないです。普通だと思っています。

ジャージの二人 (集英社文庫)

長嶋 有(著)

集英社
2007年1月 発売

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――佐野さんの言う品とは違うかもしれないけれど、私が感じるのは人に対する優しさなんです。照れ、シャイネスもあるかもしれないけれど。

長嶋 照れはね、売れないんだよ。弱いんだよなあ(笑)。

――売れない売れないと言いつつ、小説以外にもいろんなことに挑戦してらっしゃいますよね。3月には新刊が出るとか。

長嶋 そう、映画評の本なんですよ。『キネマ旬報』で2年間連載していたんですが、これが勝手に手応えがあったと思っていて。身近なレベルでも評判がよかったの。それにパンフレットの寄稿なんかもたまってきているので、まとめて3月に文藝春秋から本にすることになりました。それのために、引きの強い書き下ろし原稿を書かなくちゃいけなくて。16年は『シン・ゴジラ』とか『この世界の片隅に』とかを、意識して観るようにしてました。

 博覧強記ではない僕からすると、映画の言葉って固有名詞が多いなと思って。「小津が」「黒澤が」とか。居酒屋で10人くらいで飲んでいて映画の話になると、その名詞が分かる人たちだけ楽しい空気になるの。でも、監督や役者の名前を出さなくても、その作品の中で起った出来事や、その中の人物がしたことだけで語ることだってできるはずなんです。それならその場の全員が分かるじゃない。それで、キネ旬のような伝統的な場所で映画評を連載している時に、自分は人名を言わない、ってだんだんルールを決めていったんです。時々「あっ間違った、トム・クルーズって言っちゃった」みたいなことがあったけども(笑)。

 なんか、映画がすごいものだっていう、うっとりした感じへの懐疑がずっとあるんです。だから映画を愛していない人の映画の言葉が書けるんじゃないかと思ったので、そういう映画評の本になっています。

――地味な女シリーズはいつ出ますか。

長嶋 もう、1、2年かかるかな。それより先に、先月の「群像」に300枚一挙掲載した「もう生まれたくない」があるので、それを今年中には出そうと思っています。昨年の6月に1冊出したんだから、次はそこから1年11か月以内に出せばいいと思ってる。

――2年空けるのは嫌ってことですね。

長嶋 そうです。「長嶋有は小説の刊行を2年空けたことがない」と言いはっていきたい。だからなんとか出します。

――15周年を迎えて、今後どうしたい、というのはありますか。

長嶋 「群像」に一挙掲載したのが相当辛かったので、悠々自適でいきたいですね。しばらくはゴロゴロします。