事態の収拾に動いたのは首相官邸だった。菅義偉官房長官は報告書を受け取らないという異例の対応を指示した。それまで報告書について肯定的な発言をしていた麻生氏が態度を一変させたのは、菅氏の指示によるものだったのだ。
2006年に発足した第1次安倍政権は参院選前に「消えた年金記録」の問題が噴出し、1年で退陣に追い込まれた。首相官邸にはそのときの記憶があるのかもしれない。自民党の二階俊博幹事長は「参院選を控え候補者に迷惑を及ぼさないよう党として注意しないといけない」とストレートに発言している(日本経済新聞 6月11日)。
三井秀範 金融庁・企画市場局長
「配慮を欠いた対応でこのような事態を招いたことを反省するとともに深くおわびする」
産経新聞 6月14日
14日に行われた衆院財務金融委員会では、審議の冒頭に金融庁の三井秀範企画市場局長が謝罪した。三井氏は林幹雄氏が自民党本部に呼び出して撤回を迫った人物。政府に対する「おわび」に見えて仕方ない。
与党が参院選まで隠したい、もう1つのこと
安倍晋三 首相
「こういう問題についてはですね、いわば政争の対象とするのではなくてですね、冷静な議論が大切でございますから、それはですね、まさに確かな検証をしっかりとお示しをするということが、政府としての使命なんだろうと」
日テレNEWS24 6月18日
麻生太郎 副首相兼金融相
「(公表を)選挙前にできると言える段階でない」
ロイター 6月18日
参院選前に明らかになっては困るものがもう一つある。厚生労働省が公的年金の将来的な給付水準の見通しを示す「年金財政検証」だ。前回、財政検証が行われた5年前は6月3日に公表されたが今年はまだ公表されていない。
立憲民主党の川田龍平参院議員は「この国会終わってから出したり、ギリギリに出して議論できなくするのはダメです」と追及したが、安倍首相はいつ出すのか明示しなかった。野党側は夏の参院選の後に先送りするのではないかと指摘しているが、麻生氏の発言はそれを認めた形だ。
安倍晋三 首相
「あたかも一律に老後の生活費が月5万円赤字になるとしたことは、国民に誤解と大きな不安を与えるもの。高齢者の実態はさまざまで、平均での乱暴な議論は不適切であった」
朝日新聞デジタル 6月18日
こちらは18日の参院厚生労働委員会での発言。しかし、本当に「平均での乱暴な議論」は「不適切」だったのだろうか? 経済評論家の加谷珪一氏は次のように記している。
「あくまで平均値なので、全ての人に当てはまるものではないが、年金収入だけでは暮らせない人が多いのは事実である。2000万円という数字の是非はともかくとして、支出に応じた相応の貯蓄が必要という指摘そのものは間違っていない」(ニューズウィーク日本版 6月17日)