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 8月21日、Mさんはアルバイトのため、家を出た。「寝ている崚太の足の裏をくすぐった。それが最後です」。そのあと事件が起き、被告人は崚太君を抱えて病院に連れて行き、「自分が刺した」と説明していた。法廷でMさんは終始むせび泣くようにしてかろうじて質問に答えていた。

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「中1の1学期で野球部を辞めさせた」

 2019年6月24日、被告人の父親T氏(被害者の祖父)が、弁護側の証人として証言台に立った。以下はそのやりとりの一部抜粋。

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弁護人:孫である崚太君はどんな存在でしたか?
T:家の跡継ぎですから、大事な孫でした。
弁護人:証人も被告人と同じ中学・高校を卒業していますね。
T:親の言うとおりに受験して、進学しました。
弁護人:証人の父親はどんなひとでしたか?
T:しつけの厳しいひとでした。親を敬えとか、勉強中叩かれたり、同じような間違いをくり返したときには竹のモノサシで手を叩かれたり。窮屈で自由のない子ども時代でした。
弁護人:勉強は楽しかったのですか?
T:受験勉強は楽しくありませんでした。親の言うとおりにやっていただけです。高校生になっても窮屈でした。勉強部屋から出られないように、外から閉じ込められたこともあります。
弁護人:薬剤師になったのは自分の意志ですか?
T:薬剤師にはなりたくありませんでした。本当はサラリーマンになりたかった。でも、祖母に頼まれて、薬剤師になりました。
弁護人:2人のお子さんにはどういう職業を望まれましたか?
T:長男の憲吾は薬剤師、次男には医者になってもらおうと望みました。小さいころからそれとなく伝えていました。子どもの付きたい職業にならせてあげたいと思ったことはありません。
弁護人:証人は被告人に対してどのように接していましたか?
T:私がされたのと同じように、非常に窮屈な思いをさせたと思います。我慢強い子でした。
弁護人:被告人に中学受験勉強をさせようと思ったきっかけは?
T:薬剤師にしたいという願望から、無理やりやらせました。
弁護人:被告人の中学受験勉強を見てあげたのですか?
T:薬局の仕事の合間の空いた時間に参考書を予習して、学校から帰ってきた憲吾に教えました。
弁護人:被告人は勉強を楽しんでいましたか?
T:いいえ。仕方なく、一生懸命やっていました。
弁護人:被告人を叩いたり、怒鳴ったりしたことはありましたか?
T:ありました。態度が悪いときや、つまらないミスをしたときに、腹が立って。
弁護人:被告人が志望校に合格したときはどんな様子でしたか?
T:たぶんうれしかったと思います。野球部に入って野球をやれることを喜んでいました。
弁護人:被告人は野球部に入ったのですね。
T:はい。でも、中1の1学期の中間試験でひどい成績をとってきたのでやめさせました。