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 よく見ると、(少なくとも8月31日夜のヘネシー・ロードでは)警官隊と戦う勇武派たちも、実は自分の生命の安全を確信して動いているように思えた。彼らが投げる火炎瓶は大部分が警官隊よりも手前で着弾し、白兵戦も起きない。私自身も慣れてきて、近くで炎や催涙ガスが広がっても平気になり、呑気にスマホを取り出せるようになった。

 安全な中間地点にエサ(=火炎瓶)が落ちると、数十人のマスコミが池の鯉のように群がり、火炎の向こうにいる勇武派をカメラにおさめる。市街地の真ん中とはいえ、路上の炎は10分ほどで消えるので安心だ。逆に警官隊が催涙弾を撃つと、煙の向こうにボンヤリ見える勇武派の写真を撮るべく、やはり「池の鯉」たちが着弾地点に殺到する。

 やがて勇武派が後退し、路上の大きな水たまりの前に陣取った。すると再び「池の鯉」たちが集まり、コミケの人気コスプレイヤーに集まるカメコさながらにローアングルでレンズを向けはじめた。彼らは水面に映った香港の夜景とデモ隊という、報道映えする絵を撮りたがっているのだ。

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水たまりに群がる世界各国のメディア関係者(上)と、それに向かい合い「記念写真撮影」に応じるデモ隊(下)。ちなみにメディアは警官隊とデモ隊の中間に陣取っている。8月31日撮影

 香港警察も各国メディアも必死で自分の仕事をおこなっており、勇武派も覚悟のうえで相当なリスクを負っている(隊列からはぐれて逮捕されたり、催涙弾などが直撃する危険もある)。だが、この場にいる全員が真面目に頑張っているにもかかわらず、どこかお仕着せのショーや茶番劇めいた感覚がつきまとう。

中国メディアも欧米メディアも信用できない

 マスコミはマスコミ自身を映さない。ゆえに私たちが日本で報道を見るとき、当然ながら彼らの動きの大部分はカットされる。だが、デモ隊の悪い面ばかりを報じる中国メディアの肩を持つ気はないとはいえ、どうやら欧米メディアの報道も信用できないことは現場から見て取れた。

 欧米メディアは旧英国領の国際都市・香港に好意的で、近年世界的に警戒論が高まる独裁国家・中国に批判的だ。ゆえに香港の「暴徒」たちがいくら乱暴狼藉を重ねても、カメラのなかの香港デモは「純粋な若者の民主化運動」としての顔が強調される。自由と正義のために戦う少年少女の、心を打つ姿ばかりが真実として配信されていくのだ。