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米国人の40%は進化論を信じていない

 なぜ、21世紀に地球平面説が大人気になっているのだろうか? アメリカの場合、宗教の問題もある。ドキュメンタリーにも登場するが、聖書の記述を重んじて紀元前や恐竜の存在を肯定しないキリスト教福音派の数は未だ多い(2019年ギャラップ調査では米国人の40%が進化論を信じていない)。

 一方、コミュニティ拡大に寄与したのはインターネットである。地球平面説協会の国際会議で行われた調査では、ほぼ全員がYouTubeをきっかけにしてフラット・アーサーになっていた。彼らはそれ以前にも9.11やケネディ暗殺などの陰謀論動画を視聴していたため、YouTubeから「おすすめ」されるかたちで平面説に出会ったのだ。

『ビハインド・ザ・カーブ』では、難しそうな図や数式を提示するYouTube動画によって陰謀論を信じてしまう人々について「ダニング=クルーガー効果」が紹介されている。能力の低い人ほど己の能力不足を認識できず自信過剰になってしまう認知バイアスなのだという。

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 一方、『ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から』では、高学歴の人ほど自身の考えを補強する情報ばかり集めて極端な思考になっていく「賢い愚か者効果」が解説されている。同書によると、地球平面説の支持者は「自分は一般の人よりも論理的である」と考える傾向が強かったという。

無害に見える「地球平面説」の有害な一面

 無害に思える地球平面説だが、「反科学」陰謀論であることに変わりはない。フラット・アーサーたちのコミュニティでは、ほかの陰謀論を信じる者も多いと報告されている。その一つとして、実害をもたらす「反ワクチン」が挙げられる。近年、アメリカではソーシャルメディアを介した「反ワクチン」説の流行によって撲滅されたはずの麻疹の症例が増えており、ニューヨーク市の一部地域ではワクチン接種が義務化された。これに関しては日本も例外ではない。昨今では「反ワクチン」を推奨するような人気芸能人も見られており、NHKが注意を呼びかける特集を放送している。

 もちろん、アメリカでフラット・アーサーはまだまだマイノリティだ。信条を明かすとデートもままならない為、彼ら専用の出会い系サービスまで運営されている。『ビハインド・ザ・カーブ』には、平面説を支持した結果、家族との縁を切った人々も登場する。こうした孤立も根深い問題だ。社会から疎外されて仲間としか接しなくなると、いざその考えを捨てたとき、友人を失い、孤独になってしまう。そのため、陰謀論コミュニティから離れづらくなってしまうのだ。