昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2020/04/28

安倍首相の発した「モスキート音」

 私は会見を生中継で見ていたが、当初首相が何のことを言っているのかわからなかった。会見を見てる多くの人も「朝日がマスク???」だったであろう。

 しかし「よく言ってくれた!」と痛快に届く層もあったらしいのだ。調べてみるといわゆるまとめサイトにこの朝日マスクのネタが載ったという。それを首相がわざわざ会見で使ったのだ。なるほど!

 仮に、首相サイドも同じ情報源を見ているかもしれないというのも凄いが、こういう例えもできないか。

“首相は一定の人にしか聞こえないモスキート音を発した”

©iStock.com

 モスキート音とは「大人には聞こえない音」とか「ある一定の年代の人たちにしか聞こえない音」と言われる。今回、あの会見で首相は朝日のマスクをわざわざ“情報公開”することで、一定の人にしか聞こえないモスキート音を発したと言えまいか。朝日記者へのあの「返し」は、一定のコア層の感情を刺激し気持ちよくさせてあげたのである。

 でもあの会見は「一律に1人当たり10万円の給付を行うこと」を全国民に対して説明する会見だった。一部の人々を興奮させるだけの場ではないはずだ。

 首相にとってそれほど朝日憎しという気持ちがあることがわかる。そしてあの手法をすることで「首相対朝日」の構図にずらした効果も見逃せない。

466億円を「説明しない」方向に誘導

「首相は揶揄した、してない」「布マスクは朝日も売ってる、いや朝日のマスクは性能が違う」などとSNSでは意見が飛び交った。

 その結果「466億円の税金の使い道としてどうだったのか」という大事な答えが隠されてしまったのだ。一部の感情を揺らすあの手法を用いることで、全国民への会見という場でも「説明しない」方向に誘導して乗り切ったのである。

 そう考えると首相がコロナ対応でこれまで何回か行ってきた会見を思い出したい。感情に訴える精神論やポエム的なものが多かった。あれも説明と感情を抱き合わせで相殺している手法と言える。

「非常時のリーダーシップとは」(東京新聞4月24日)という記事ではドイツのメルケル首相の支持が上がった理由として、「自分の言葉で語り、国民に寄り添う姿勢を見せてきた」という識者の分析を載せた。それに対し自らの言葉で語らない安倍首相の姿勢を問題視していた。

©iStock.com

 でも安倍首相も朝日記者には自分の言葉で自信を持って答えていた。あそこだけメルケルだった。

 あとは「政治的決定を透明化し、説明することで行動の根拠を示す」というメルケルの言葉も実践するだけである。

 では、あの布マスクは誰が発案したのだろうか。