今や『ONE PIECE』より売れているという『鬼滅の刃』。買い占めと転売が社会問題化していたほどですから、それはそれは相当な売れ行きと想像されます。「STAY HOME」の今となっては、夢中になって読みふけっている方も多いことでしょう。
ところがそんな『鬼滅の刃』と同じくらい、おもしろいマンガが存在することをみなさんはご存じでしょうか。『ガラスの仮面』っていうんですけど。
続きが読みたいために書店が開く時間まで眠れずに待ってしまう……
平凡な(と思われていた)少女・北島マヤが、往年の大女優・月影千草と出会い、演技に開眼。演劇界伝説の名作「紅天女」の主演の座を巡って、エリート女優・姫川亜弓と競い合う……というのがそのあらすじ。
なにしろ少女マンガ史上屈指の大傑作です。どれくらいおもしろいのかというと、マンガ評論家の呉智英氏が文庫版12巻の解説に書いたように、「ある友人は、書店で数巻買いその夜読み始めたのはいいがたちまち読み終え、続きが読みたいために書店が開く時間まで眠れずに待っていた」くらいおもしろいのです。この気持ち、「鬼滅」を楽しみに読んでるみなさんにはご理解いただけるのではないでしょうか。
では具体的になにがどうおもしろいのか。やや無茶ぶりながら、『鬼滅の刃』との共通点を足がかりに、みなさんにご紹介したいと思います。以下少々のネタバレがありますのでご注意ください。
その1)「吸血鬼」という要素がストーリーを面白くする!
大正時代の日本を舞台としながら、「血によって人間が鬼化する」「日の光に当たることで消滅する」という設定を持つ『鬼滅の刃』は吸血鬼マンガであります。中野純・大井夏代「少女まんがは吸血鬼でできている」(方丈社)が、萩尾望都『ポーの一族』や木原敏江『花伝ツァ』の分析を通して明らかにしたように、少女マンガのコアには吸血鬼マンガがあります。詳しくは本書をご覧いただくとして、その点において『鬼滅の刃』も少女マンガの流れを汲む作品であるとも言えます。
『ガラスの仮面』にも吸血鬼要素が存在します。演劇をテーマとしたマンガですから、そこには多数の劇中劇が登場するのですが(実はこの劇中劇の多くは美内すずえ先生が個別にマンガにするため温めていたネタ。だからそれだけに単品でも抜群におもしろい!)、その中のひとつに「カーミラの肖像」という吸血鬼ものの作品があるのです。
主演は乙部のりえ。卑劣な罠を仕掛けて北島マヤを芸能界から追放した「ガラかめ」史上最凶のヒールです。その悪行を知ったマヤのライバル・姫川亜弓は、喜ぶどころが白目になって激怒し、「同じ演技者の風上にもおけない…!」と、マヤの敵を討つべく乙部のりえと同じ舞台に立つのでした。