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「発声練習をしていたらいきなり腹パン」“狂気のエチュード”たち 

 そして『ガラスの仮面』名物といえば正気の沙汰とは思えないエチュードの数々です。『鬼滅の刃』にも特訓のシーンはいくつかありますが、「ガラかめ」を知っている人には生ぬるく思えるほど。やっぱり「ガラかめ」はスポ根なんですよね。お芝居のシーンもおもしろいのですが、この物語の本質はやはりエチュードにあると思うのです。

 発声練習をしていたらいきなり腹パンされる程度なら序の口。人形の役をやるために体中の関節を竹で固定されたり(折れると刺さって痛い)、洗濯機のコンセントを抜いて感電したり(「ウォーター!」)、「ぎんぎんのロック…!」をかけながら四方八方からボールを投げつけられたり(人手が必要)、恋する女を演じるために端役のぼんくら男とつきあってみたり(亜弓さんの鬼畜ぶり)、精肉店の冷凍庫の中でおしくらまんじゅうしたり(月影先生の謎人脈)、狼少女になりきるべく1人山に籠もったり(普通に危ない)……デ・ニーロもびっくりのメソッド俳優ぶりが披露されます。

『ガラスの仮面』アニメDVDジャケットより

 もしかしたら現実の舞台俳優さんたちもこのようなレッスンを当然のようにこなしているのでは……と、若き日の私は心配したものですが、そんなことはありませんでしたのでとても安心しました。

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 そしてその真骨頂が第12章「紅天女」。単行本の34巻から41巻に渡って、ほぼ全編がエチュードによって展開される、怒濤のパートです。途中、(主に速水さん絡みのシーンで)私はいったいなにを読んでいるのかな? と道を見失いそうになりますが、気をつけてください、これは『ガラスの仮面』です。

その3)展開がスピーディでゴールはもう見えている

 明らかなクライマックスを迎えて、『鬼滅の刃』の最終回はいつかとネット上で話題になっています。「週刊少年ジャンプ」の連載作品で、これほどの人気があるというのに、さくっと終わることができたなら、それはマンガ史上に残る快挙となるでしょう。私くらいのアラフォー世代は、無駄に引き延ばされて残念なことになったジャンプ作品をたくさん知っていますから……。

 実は『ガラスの仮面』もクライマックスなのです。さらに言うならばもう30年以上クライマックスなのです。なぜクライマックスがそんなに長く続いているのかというと、美内先生が続きを描いてくれないからです。

 先述の第12章「紅天女」が始まった34巻が刊行されたのは、なんと1987年のこと。最終目的地である「紅天女」が章タイトルになっているくらいですから、当然クライマックスです。ですが2020年4月現在、『ガラスの仮面』は49巻にして未だ完結していません。美内先生によれば終わり方はもうとっくに決まっているそうです。1997年の「婦人公論」7月号のインタビューで、先生はこのようにおっしゃっていました。

「『ガラスの仮面』の結末は、もう十年ほど前から決まっているんです」

作者・美内すずえ ©文藝春秋

 推測するに第12章を描き始めたころには、もうラストまでの道のりは決めていたわけです。2017年に開催された「連載40周年記念『ガラスの仮面展』」の公式ビジュアルブックでもこのように語っていらっしゃいます。

「『エンディング』のシーンはずいぶん前から決まっていて、今でも変わっていません。大筋のあらすじも変わりません」

 だったら早く描いてくださいよぉぉぉお。なにしろもはや親子三世代で楽しんでいるファンもいるという長期連載。このままでは死ぬに死ねない高齢ファンの方も多いことでしょう。

 ところで2018年の年末に、私は美内先生のトークショーの司会をやらせていただきました。そのときに美内先生は「来年こそは続きを描きます!」と力強く宣言してくださったんですよね。来年、すなわち2019年です。そして気がつけば2020年になっていました。白泉社の中の人はもっと頑張ってください(笑)。