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見事なコマ割と巧妙な「観客解説システム」

 愚痴が長くなりました。連載期間は長いのですが、マンガの展開自体は実にスピーディです。その秘密は美内先生一流の見事なコマ割と、巧妙な「観客解説システム」にあります。

 美内作品はとにかくページの密度が濃く、コマ割がかっこいいのです。緩急の見事な使い分け、ここぞというときのスピード感と迫力、そしてトラウマになるほどの大ゴマ(「おらあトキだ!」ジャリジャリジャリ)……。月影先生の「緊張と緩和…それを生み出す役者は注目を集める…!」という言葉を地で行く美内作品なのです。

2016年には貫地谷しほりさんが主人公・北島マヤを演じて舞台化された ©文藝春秋

 そして「観客解説システム」。『ガラスの仮面』を読んでいると、このようなシーンを頻繁に見かけることでしょう。演技するマヤを見ながら「気づかんか これはジェーンの心が人間へと変化しつつあるのじゃ」などと演技のポイントを勝手に解説し始める観客たち。マヤの経歴だって誰かが勝手に解説してくれます。「なんせ全日本演劇大会で登場人物全員欠場の中1時間45分間一人舞台つとめて一般投票一位になったんじゃけん…」。こうした、実際にいたらちょっと迷惑な人々によって、物語はスムーズに流れて行くのです。

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魔力を持った数少ないマンガ『ガラスの仮面』

 いったん手に取ればページをめくる指は止まらなくなります。『ガラスの仮面』はそういう魔力を持った数少ないマンガなのです。絵はまごうことなき昭和の少女マンガですが、そんなことはすぐに気にならなくなるでしょう。まだ読んでいない人が私は心底羨ましい。今からあの極上の読書体験を味わえるなんて……! 恐ろしい子……! 「こんなとき」だからこそ必要なのはマヤが見せる極上のポジティブ思考と、そしてなによりも圧倒的な物語の力なのだと、私は思うのです。